第115話 進め! タートル号。2


 鳥かごを宿屋に置いたままにしていたことを思い出した。たいして役に立たない悪魔なので、そのまま残しておこうがどうでもよかったが、宿屋にとっても迷惑だろうと思い回収することにした。


「ダークンさん、私が取ってきます」


 率先垂範そっせんすいはん。まさに労働者のかがみ。アズランが鳥かごを取りに行ってくれた。


 その間、タートル号は街道の脇で小休止だ。


 アズランを待っているあいだ暇なので、甲羅に空いたスリットから街道を眺めていたら、街道を行き来する馬車や通行人が立ち止まってタートル号を眺めている。ちょっとした交通渋滞だ。見物人の中にはわざわざタートル号の近くまでやってくる者までいる。こうなってくるとウザくなる。



「トルシェ、見物人が寄って来てウザいんだが、何とかならないかな? 例えば水鉄砲みたいので攻撃するとか」


「水鉄砲が何なのかわかりませんが、ウォーターボールで吹き飛ばしますか? それだと簡単に皆殺しできるけど。脅すだけならスッポーンしちゃいますか? 二、三人スッポーンしたら誰もいなくなりますよ」


「いなくなるとは思うが、未来の英雄がそんなことしちゃマズいだろ?」


「それじゃあ、ちょっとこいつを動かして、脅かしてやりましょうか?」


「うん、それくらいならいいんじゃないか。ところで、このタートル号はどうやって動かすんだ?」


「適当に、『ナニナニしてくれ』って命令すればいいだけです。慣れてくれば簡単な言葉だけでも自分で判断できるようになるはずなので、もっと命令は楽になると思うけど」


「それはすごいし、便利だな」


 まさにAIだ。


「タートル号、そこらをぐるっと一回りして周りの連中を驚かせてやれ!」


 抽象的な命令だが、それでもタートル号は理解できたようで、いきなり四つ足で立ち上がった。


 それだけでもタートル号の近くまで来ていた見物人は慌てふためいて逃げまどっていた。


 スリットから外を覗いていたのだが結構面白い。こんなことで喜んでいては女神としては問題なのだろうが、面白いものは仕方ない。


 その後、タートル号が動き始めたら、今度は、街道で停まっていた馬車馬が騒ぎ出してしまった。御者が慌ててなだめるものの、そんなことでは馬たちの騒ぎは収まらず大混乱になってしまった。


 これは少々マズい。けが人も出ているようだ。タートル号の動きが間接的に馬たちのパニックを誘ってしまったわけだが、あくまで間接的だ。街道上に馬車を停めた方にも責任がある。ハズ!


 いずれにせよ俺たちを罰するようなヤツはいないのでセーフは確定だけどな。


「ダークンさん、何だか外は大騒動になっちゃいましたね」


「仕方ないだろ。世の中想定外のできごとであふれてるってことが分かっただけでも良かったじゃないか」


「それもそうですね」


「アハハハ」「エヘヘヘ」


 二人で街道の惨状をさかなに大笑いしていたら、後ろの出入り口が空いてアズランがオウムの入った鳥かごを持って帰ってきた。サティアスはオウムのまま鳥かごに入っていたようだ。律義なやつだ。そういったところは好感が持てるな。サティアスオウムがタートル号の中をキョロキョロ見回しているのだが毎度のことながら全く可愛かわいくない。



「アズラン、ご苦労」


「ダークンさん、外では大ごとになってますが何かあったんですか?」


「なーに、タートル号の見物に集まった連中がうっとおしいので、ちょっと脅して追っ払おうとしただけでああなっちまった。仕方のない天災だな」


「その割に中から笑い声が聞こえてましたよ」


「なんか見てて面白かったから笑いが出たまでだ。笑いを無理に抑えていたら女神と言えども体に悪いからな」


「そうだったんですね。私も最初から見たかったなー」


「アズラン、それならもう一度やってあげるよ」


「待て待て。これ以上やったら死人が出るぞ。ここは放っておいて、そろそろ出発しようぜ」


「それもそうですね。それじゃあ。

 タートル号、西に向かって直進!」


 タートル号が動き出した。先ほど同様そんなに揺れていない。


 スリットから見える外の景色からかなりのスピードが出ているのが分かる。これなら馬車より相当早い。時速四十キロは無理でも三十キロは出てるんじゃないか?



「ところで、トルシェ。タートル号は川も渡れるんだよな?」


「もちろんです。川を渡るときは歩くときよりはスピードが落ちると思いますが、問題なく渡れます」


「それなら安心だ。あ、それと、そのうち山の中にも分け入るだろ? 通り道に立ち木が有ったらどうなるんだ?」


「なぎ倒していくだけです」


「おお、そいつは豪快でいいな。アッハッハッハ」


「エヘヘヘ」




 タートル号は大丈夫。このまま放っておいても西にまっすぐ進んでいく。


「それじゃあ、今日も早いが、そろそろ酒盛りを始めようぜ」


「さんせー!」「やったー!」



 陽が沈み外は真っ暗になってもタートル号は西進する。街道自体は南西方向にカーブしていた関係で、西進するタートル号は街道からどんどん離れていったのだが、酒盛り中の俺たちにはわかるはずもなかった。

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