第114話 進め! タートル号。1
王都西門の先にある駅馬車の駅舎に行けば馬車が手に入ると思っていたが、売り物の馬車は無かったようだ。仕方ないのでまた王都に引き返し、馬車屋を探すことにした。
通りを歩きながら道行く人にトルシェとアズランで馬車屋がどこにあるか聞いて回っているのだが、誰も知らなかったようだ。
「この調子だと、馬車屋はこの王都に無くて、どこかから取り寄せてるのもかもしれないな。困ったな。……、待てよ」
「どうしました?」
「トルシェ。ゴーレムが作れるくらいなら、馬車くらい作れないか?」
「言われてみれば、馬車を作るくらいゴーレムより簡単でした。車輪の代わりにゴーレムの足を付けておけば、馬車を引っ張るゴーレムもいらなくなるし」
「いや、足の付いた馬車はさすがにマズいだろ。ガタガタして乗り心地も悪そうだし」
「それもそうですね。魔力だけでも作れそうだけど、骨組みの素材があった方がしっかり長持ちするものができるはずなので、材料の土石が転がっているさっきの駅舎あたりまで戻りましょう」
もう一度王都の西門を出て街道を西に進み、駅舎を少し過ぎたあたりで、石で舗装された街道から脇に折れ、地面のむき出しになった空き地に立った。
「この辺りの土石を使いましょう。赤茶けた感じが良さげです」
「素材の色も大切なのか?」
「いえ、全然。素材も適当で大丈夫です。水や泥でもゴーレムの素材になると思うけど、ちょっと嫌でしょ?」
「なんかのはずみで壊れた時に泥や水をかぶりたくはないな。それに水が素材だと透明だろ? あんまり馬車の中が外から見えるのも嫌だな」
「ということで、まずは馬車を作りましょう。大きさ的には、テルミナで乗った乗合馬車くらいでいいですか?」
「どうせだから、もう少し大きい方が良くないか。三人で横になれるくらい」
「分かりました。気に入らなければ、後からいくらでも修正できるので、最初は適当でいきます」
そう言ってトルシェが少し先の地面に向かって広げた両手を伸ばして、
「エイッ!」
掛け声と一緒に、地面がムクムクと盛り上がり、なんだかモコモコと形ができ上って行った。
でき上った馬車?は、車輪の付いた
「トルシェ、ちょっと、俺の考える馬車とはイメージが違うような気がするんだが」
「ダークンさん。これから戦場に行くことを考えて、防御力重視ということでこの形をイメージしました。ダメですか? この甲羅はそこらの攻撃ではびくともしませんよ」
そこまで言われてダメ出しはさすがの俺もできはしない。
「そうだな、そう言われてみれば、すごく硬そうだし、いいんじゃないか」
とりあえず、肯定はしておいた。しかし、こんなのが街道を移動してたら人目を引くに違いないし横幅も結構あるので街道で向こうからくる馬車とすれ違うこともできそうにない。
そんならいっそのこと、こいつに足をつけて、道なき道を直進する方がいいような気がしてきた。
「トルシェ。もうこうなったら、こいつに足を生やして、野山を移動できるようにしないか? カメの足の動きだと揺れにくそうだし、街道を進むより速く移動できるんじゃないか?」
「馬は造形が難しいから、変な形のゴーレム馬ができそうだったんで、ちょうどいいです」
トルシェがカメの馬車?に向けて両手を広げて伸ばした。
車輪の辺りがもやもやしたかと思っていたら、もこもこし始め、それが収まったところでカメの足が生えていた。
「できました!」
何も言わなかったのだが、ちゃんと陸ガメの足だった。こうなると頭も欲しくなるがカメの頭は今のところ何の役にも立たないだろうからこのまま首無しでいいだろう。
しかしこのカメ、ずいぶん大きいな。
「早速中を見てみよう。
それでトルシェ、このカメにはどこから乗るんだ?」
「あれ? 出入り口をつけ忘れてました。
……。これでいいかな」
カメが足を膝立てにして、胴体がゆっくり下がり地面に着いた。
「真後ろの甲羅が上に開くようになっているんで、そこから入ってください」
言われたように後ろに回ったが扉の位置がはっきり分からない。適当に甲羅の一番後ろ辺りに手をかけたら、パカッと甲羅の一部が上の方に開いた。ハッチバックだ。
出入り口の幅は一メートルほど。人一人がある程度の荷物を持って出入りできそうだ。
カメの甲羅の中に入ると、外から見た時よりも広く感じた。俺のみたてでは、十畳間くらいの広さがある。ただ、形は四角ではなく丸いし、天井は真ん中はかなり高いが、隅の方はかなり低い。
明り取りの窓のような感じで、周りにぐるりと戦車ののぞき窓のようなスリットが並んでいた。大砲は積んでいないが、まさに戦車だ。
「トルシェ、なかなかいいじゃないか。今はこの中に何もないけれど、椅子とかなにかは置けるんだろ?」
「もちろんです。どうします? わたしが魔法で作ってもいいし、キューブの中には応接セットみたいなのもありますよ」
「そうだな、応接セットのソファーに座ってお茶でも飲みながら、カメに揺られるのも面白そうだから、応接セットを出してくれ」
「はーい」
そう言ってトルシェがカメの部屋の真ん中に応接セットを収納キューブから取り出した。
早速そこに座って、座り心地を確かめる。
「どこで拾ったものかは忘れましたが、いい応接セットでしょ?」
「なかなかいいソファーだ。
それじゃあ、試しにカメを動かしてくれるか?」
「りょうかーい」
ふっと体の重さを感じた。カメが足を伸ばして甲羅が持ち上がったのだろう。
ソファーからだと、スリットを通して外の景色は見づらいのだが、景色の流れからすると意外とスピードが出ている。少なくとも乗合馬車よりも速そうだ。動きに合わせてゆっくり部屋は揺れるのだが気持ちの良い揺れだ。
「カメカメ言ってたらちょっとかわいそうだから俺が名前を付けてやろう。
こいつの名前は、タートル号でいいか?」
「タートルとは?」
「カメを別な言葉でカッコよく言ったものだ。
進め! タートル号!
なかなかいいだろ?」
「いいですね!」「カッコいー!」
「にっくき、鬼畜ハイデンを撃ち滅ぼすため、わがタートル号は西を目指すのであった! アハハハ」
調子が出て来たぞー!
「ダークンさん、お酒でも飲みますか?」
「まだいいかな。
何か忘れているような気がするんだが、何だっけなー?
あっ! 宿屋に鳥かご置いてきた」
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