第131話 急報


 宮殿での仕事もうまく片付いた。


 宮殿入り口の前に停めていたタートル号をゾウガメサイズまで戻してくれとトルシェに言おうとしたら、鳥かごのことを運よく思い出した。運がいいのはオウムのサティアスだけどな。


 俺がハッチバックからタートル号に鳥かごを取りに行こうとしたらアズランが気が付いて、


「鳥かごを取ってきます」


 といってすぐに取ってきてくれた。サティアスはちゃんと鳥かごの中でオウムになっていた。律義なヤツだ。



「それじゃあ、宿屋に帰ろう」


 王宮前の大通りにはさすがに誰もいなかった。こんなことならタートル号で宿屋に乗りつけても良かったが、王都の様子をこうやって確認して歩くことも為政者の務めと思い直し歩いていった。むろん、フェアを肩にとめたアズランが先頭で道案内してくれている。




 俺たちは王宮を制圧し、王国をいただいた。スケルトンたちが常時見回っている以上そんなに差はないかもしれないが、俺たちが王宮に顔を出さない方が仕事がし易かろうと、例の宿屋のスイートで酒盛りを丸一週間続けた。その間の情報収集はジーナにつけたトルシェ2号と特別陸戦隊員たちに任せている。目が逝っちゃってる特別陸戦隊員たちにはあまり期待はしていなかったが、それなりに役に立ったようだ。


 トルシェ2号からの連絡はトルシェが直接聞いている。これで王宮からの連絡も遅滞なく受け取ることができ、こちらからの指示も簡単に出せるようになった。




 スケルトン二体組が多数街を巡回を始めた当初はスケルトンを王都民たちも恐れていたようだが、基本巡回しているだけで、これまでの警邏の連中のような居丈高な態度をとるわけでもない。言葉は喋れないが、非常に礼儀正しい。何より王都内の犯罪がめっきり減ったという認識がひろまり、徐々に街に溶け込んでいった。


 裏切り者たちの処刑は既に執り行われており、その係累もほとんど死刑に処した。もちろん財産などは全て没収だ。


 財産没収と聞いてトルシェが予想通り喜んでいたが、国のものになるだけで別に俺たちのものになるわけじゃないと言ったら、やはり落ち込んでしまった。


 王都近郊にいた王国軍も全て俺たち新政権に忠誠を誓っている。




 リスト商会の方も目論見通り今回のクーデターで大儲けしたようだ。クーデター自体はそこまで派手ではなかったが、スケルトンペアによる王都内の巡回が良かったようだ。一度大暴騰した王都の物価も今はだいぶ落ち着いているそうで何より。



 俺の大神殿の敷地の片づけ完了まではまだ一月以上かかる。トルシェの魔法で作業すればかなり早く作業が進むだろうが今さら焦っても仕方がない。


 ということでさらに酒盛りが続く。


「そう言えば、ダークンさん」


「なんだ? トルシェ」


「どうもトルシェ2号とスケルトンちゃんだけど、魔力が全然減ってないようなんです」


「どういうことだ?」


「どこからか魔力を吸収しているようで、ずーとこのままみたい」


「よかったじゃないか」


「そう思えばそうだけど、いいんですか?」


「眷属が増えたと思えばいいだけだろ」


「なーるほど。それもそうですね」


「スケルトン軍団の方はどうなんだ?」


「小隊長にしたブラックスケルトンナイトも同じ感じで魔力が減ってなさそう。普通のブラックスケルトンはあと半月くらいで消えそうな感じです」


「半月もあればハイデンに行って、滅ぼしてこれそうだろ? そろそろ一丁出張でばってやるか」


「タートル号でいきます? それともこの前みたいにダンジョン経由でいきます?」


「タートル号でいこう。どうせ、片道五日もかからないだろ? 酒とつまみがそろそろ尽きそうだから今日のうちに補充して、明日の朝にでも出発しよう」


 そういうことで買い出しに出ようと、ジョッキに残っていた酒をあおったら、トルシェが、


「ダークンさん。トルシェ2号から、王宮に至急おいで下さいとジーナが言ってるそうです」


「じゃあ、先に王宮だな。何かあったんだろうが向こうに行って直接聞けばいいだろう」


「はーい」「はい」





 ゾウガメ状態のタートル号と鳥かごを宿屋においたまま、俺たちは王宮に向かった。鳥かごの中の可愛くないオウムが悲しそうな目で俺を見つめていたような気がしたが、だぶん気のせいだろう。


 王宮の正門はまだ扉が外れたままだったが、足場が組まれて工事中だった。工事現場の脇から王宮に入り宮殿の中の玉座の間に急ぐ。


 王宮内に入ってから、出くわす連中がみな俺に向かって二礼二拍手一礼をする。いいぞー! ジーナの指示か宰相の指示か知らないが教育が行き届いているようだ。実に気分がいい。


 玉座の間に入ると、あたりまえだがジーナ以下が俺たちを待っていた。遠目だが、俺の玉座に座布団代わりのタオルがまだ乗っかているのが見えた。



「陛下、お待ちしておりました」


 そう来ると分かっていても、何だか偉くなったような気がする。冷静に考えれば、一国の王さまなんかより女神さまの方が格段に上の立場なのだが、『さま』呼びよりも『陛下』呼びされると少し嬉しく感じるのだよ。


「こちらの会議室に」


 玉座の間の隣に設けられていた会議室に入ると、縦長のテーブルがあり、一番奥の一段高い場所に一つだけ立派な椅子がテーブルから離しておいてあった。俺は迷わずその席に。


 トルシェが俺から見てテーブルの一番手前の右側、その向かいにアズランが座った。トルシェの右隣りがジーナ執政官、アズランの左隣がセルダン宰相、後は大臣たちが適当に席に着いた。ジーナの後ろにはちゃんとスケルトンちゃんが控えている。トルシェ2号とその子分たちはややこしくなりそうなので遠慮してかこの会議には出席していない。


 会議室の扉が閉じられ、ジーナが仕切って会議が始まった。ジーナもちゃんと執政官をしているようだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る