第130話 新王朝


 ジーナとスケルトンちゃんが憲兵隊に指示を出すため玉座の間から出ていった。


 一応、大臣たちも玉座の間にそろったので国の体裁も整った気がする。


「ジーナが帰ってきたら、セルダン宰相とジ-ナ・ハリス執政官で相談して適当に大臣の欠員を補充しておいてくれ」


「はい」


「さて、王宮は片付いたから、あとは国内の引き締めだ。まずは王都周辺の軍の掌握だな。こいつらを早急に恭順させないと国内が分裂するからな。歯向かうようなら叩き潰すが俺の国の軍隊だからなるべくそうはしたくない。

 セルダン、軍務大臣とかいないのか? そいつに各部隊あてに命令書を書かせて新王国に恭順するよう説得させてくれ」


「はい。陛下。

 クラウゼ、陛下のお言葉を聞いたであろう。そのように取り計らえ」


「はい」


「セルダン、逮捕した裏切り者については既存の法に照らして処断してくれ。すでにハイデンとは戦争状態だし、照らし合わせる法は軍法だよな。いずれにせよ処刑以外ないだろ?」


「おっしゃる通りです。逮捕者の係累も連座させることになります」


「国を簡単に売られてはかなわないから、みせしめのためにもきっちりやってくれ」


 玉座の間が一段と静かになった。こういったことは例外を作ることなく、速やかにかつ苛烈に行なうことが肝要だ。



「それと国名はトランのままでいいが、新王朝誕生を記念して国名と同じだった王都名トランを世界の中心という意味でセントラルにしよう。裏切り者たちの処刑と合わせて大々的に国民に知らせてくれ」


「はい、そのように取り計らいます」


「トルシェ。スケルトン軍団は、王宮内に適当に分散配置しておいてくれるか?」


 待てよ。すっかり失念していたが、これにて一件落着してしまうと、戦争を見越して仕込み終えているだろうリストに多大な借金を作らせることになる。それはマズいので、とりあえずそれっぽくスケルトンたちを王都内を巡回さて王都民の危機感を煽ってやろう。これなら、リストも十分利益を出せるだろう。


「スケルトン二体一組で、五百組。こいつらに王都の巡回をさせてくれるか? 屯所を閉鎖した代わりだ」


「はーい」


 これでリストのほうも何とかなる。いずれにせよこれからはリストはこの国の御用商人だ。これから先たっぷりいい目を見させてやるからな。


「セルダン、王都内にリスト商会という大店おおだながある。今後ひいきにしてやってくれ」


「はい。王宮でのこれまでの取引先を整理してリスト商会との取引を順次増やしてまいります」


 セルダンくんもなかなか役に立つじゃないか。


 あっ! そういえば、サティアスのことを忘れていた。『役に立つ』から『役に立たない』サティアスを連想するとは、大概だな。


「それじゃあ、後はお前たちで適当にやってくれ。

 トルシェ、アズラン。ここはとりあえず片付いたから帰るか?」


「ダークンさん、宮殿にきょを構えなくていいんですか?」


「なんかめんどくさそうだし、別にこいつらに任せせておけばいいだろ。残ったスケルトン軍団は王宮に置いていくわけだから、バカな身の程知らずは現れないだろ?」


「そうですね。それじゃあ、今日はどこに泊まります?」


「いつもの宿でいいだろ? ここからそんなに離れていなさそうだし」


「それじゃあいきますか」



「セルダン、後は任せた。ジーナと適当にやってくれ。王宮内の業務はこれまで通り続けられるだろ?

 一つ忠告しておくが、いつもジーナの後ろにいる女物の服を着たブラックスケルトンはそこらの兵隊千人くらいじゃどうにもできないようないわゆるバケモンだからな。ジーナを怒らせない方がいいぞ。

 それじゃあ、俺たちは宿に帰る。用があったら誰かを宿に寄こしてくれ。

 アズラン、あの宿の名前は何て言ったっけ?」


「『銀馬車』です」


「セルダン。だそうだ」


「かしこまりました」



 俺たちが王宮にいては何かと動き辛かろうと思い、玉座から立ち上がって宿に向かおうとしたら、スケルトンが二体、軽装の兵隊一人を伴って玉座の間にやってきた。


 何だかわからないが、一応玉座に座り直した。座布団代わりのタオルは置いたままだったので、見た目おかしいが、そこは権威と権力で知らぬ顔をしておけば誰も俺に文句を言うやつはいないはず。


 スケルトンたちはそのままその兵隊を玉座に座る俺の前まで連れてきた。


「ヤルサ守備隊から伝令に参りました!」


「申して見よ」


 どっかのドラマか何かで見た王さまの口調を真似てみた。雰囲気出てただろ?


 地方の兵隊だと国王とかじかに見たことも無いだろうから、玉座に座る俺のことを無条件に国王と思ったのだろう。それよりいたるところにいるスケルトンに驚いていない方がすごいか。なんであれこいつは大物だ。目をかけておいた方がいいな。


「は! 本日より六日前の未明、ヤルサ城壁西側にハイデン軍一万五千が展開。滞陣用のテントなどを張り、複数の攻城兵器を組み立てています」


「ご苦労。

 この伝令兵をねぎらってやってくれ」


 スケルトンが伝令兵を連れて玉座の間を辞していった。


「セルダン、そういうことだ。さっきもジーナが言ったがハイデン軍一万五千は俺が文字通り皆殺しにしたからヤルサは安泰だ。ヤルサの知事は守備隊長が逮捕した。今頃は処断されているだろう。

 軍務大臣だったけ、クラウゼは先ほどの伝令兵にそれなりに報いてやってくれ。

 それと、そのうちヤルサの北の砦からも伝令が来るだろうから、そちらも同じようにな」


「はっ!」




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