第129話 玉座の間


  トルシェと雑談しながら玉座を探して宮殿の中に入り、だいたいあの辺りが玉座だろうと目星をつけて歩いていたら、大きな扉の先の誰もいない大広間に出た。正面はステージになっていてその上に金ぴかの大きな椅子が一つ置いてあった。椅子の後ろの壁には大きな盾とその前で交差する二本の剣が飾られている。どこかのボス部屋そっくりだが、やはりここが玉座の間なのだろう。


 ためらいもなくずかずか進み、玉座に腰を下ろした。座布団が敷いてあるわけでもないのでごつごつして実に座り心地がよろしくない。スケルトン時代ならともかく今の生身の体には堪える。キューブから座布団代わりに大版のタオルを取り出して四つに折り畳み、玉座に敷いてその上に座っていることにした。先ほどよりはましだが、依然座り心地はよろしくない。


「トルシェは俺の右腕だから、玉座の右だな」


「はーい」


 トルシェは右、アズランは左は定位置として、ジーナはトルシェの右にでも立たせておけばいいか。後は、さっきの宰相おっさんが適当に差配さはいするだろう。


 玉座に座ってからの広間を睥睨へいげいするが、トルシェしかいないので間の抜けた感じがする。ここは百官を居流れさせたいところだ。そう思っていたら、スケルトン兵たちが少しずつ玉座の間に集まってきた。ざっと百体ほど集まった。以心伝心か?


 ブラックスケルトンを左右に適当に並ばせてみたが、盾と剣は持っているがマッパなので『枯れ木に山』感が半端ない。そこは仕方ない。


 しばらく玉座についてそうやって王さま気分を味わったら、すぐに飽きてきた。


 そろそろ何か連絡だとか報告が来て物語が展開するはずなんだがな。


 そう思っていたら一仕事終えたアズランがフェアを連れてやってきたので、


「アズラン、ご苦労。アズランの定位置は俺の左だ」


「はい」


 右に立っていたはずのトルシェは、何も言わないうちからゆかに腰を下ろして体育座りをして木の実を食べ始めている。


 俺もなにもすることがないので、椅子に座って干しブドウを食べ始めた。もちろんアズランもすぐに床で体育座りをして木の実を食べ始めた。


 どこにいようと変わらない風景という物がある。これが俺たちの原風景とでもいうのだろうか。


 しばらくそうしていたら、宰相が若い男を連れて玉座の間に現れ、そのまま俺の前までやってきた。ということは、目の前の若い男がこの国の王さまだったようだ。


 この国の政治について俺は何も知らないし、いいうわさも悪いうわさも聞いたことはない。予断を持って臨む必要はないが、どうもこの男、顔がネズ○男に似ている。こんな貧相な男が王さまだったのか? やはり俺が王位を簒奪したゆずりうけるのは間違っていなかったようだ。


「女神さま、トラン王国、国王クレオン1世です」


 頭を下げるわけでもなく、その男はぼーと突っ立ている。


「宰相、この男は既に王国を俺に譲り渡したんだな?」


「はい。そうお考えになってよろしいです。こちらが、わが国の正式な国印となります。この印を押すことで、正式な命令が国王名で発っせられます」


 小さな紫の座布団の上に乗った金印をセルダンが俺に手渡した。


 金印はそんなに大きなものではなかったが、金でできているというだけあってそれなりにずっしりしたものだった。大事なもののようなので一応キューブに収納しておくか。


「分かった。そいつは、自分で勝手にすればいいから開放してやれ」


「はい。それでその男の係累はいかがいたしましょう?」


「一緒に追い出せ。ただこいつは金は持ってるのか?」


「いえ、おそらく無一文かと」


「セルダン、この男を新王国の伯爵待遇として、この男と一族が住めるところをどこか地方に用意してくれ。それで伯爵相当の年金を適当に支払ってくれるか? 伯爵って爵位はあるんだろ?」


「はい、そのように取り計らいます」


「トルシェ、元国王に金貨を一袋渡してやってくれ。当面の生活費だ」


「はーい」


 そういって、トルシェは立ち上がり結構大きな袋を取り出して、ネズ○男に手渡した。トルシェは拾い物には目がないが、決して吝嗇ではない。そこは褒められるべき長所だな。


 二体のスケルトン兵がネズ○男を連れて玉座の間から出ていった。ネズ○男はトルシェにもらった金貨の入った袋を大事に抱えていたが、あの金もちゃんと使えばそれなりの期間生活できるだろうし、商売の元手にもなるだろうが、あの男ではダメかもしれない。これで国を譲ってくれた先王に対する義理は果たせたわけだ。




 セルダンの新旧あるじに対する態度の変わり方は非常に好ましい。誰の下に付いた方が自分のためになるかの判断もできないようなボンクラはわが王国の中枢には不要だからな。


「セルダン、わが王国のためジーナを引き立て励めよ」


「はっ! 誠心誠意努めさせていただきます。それはそうと女神さま。女神さまのことをこれからは陛下とお呼びした方がよろしいでしょうか?」


「そうだな。当面はそれでいい。俺の左右のトルシェとアズラン、それにジーナは閣下だな。そう下々に伝えておけ」


「かしこまりました。陛下」


 陛下と呼ばれていい気になってニヤニヤしていたら、ジーナがスケルトンちゃんとそのほかの大臣を引き連れて玉座の間に入ってきた。


「いただいた書類で名前の分かっていた裏切り者は全て逮捕しました」


「よくやった。そいつらの屋敷については、憲兵隊を向かわせてくれ。お前が直接憲兵隊に出向いてもいいし、手紙を書いてスケルトン兵を伝令にやれば憲兵隊が動くはずだ」


「はい。それでは私が直接出向きます」


 そう言って、ジーナは玉座の間から出ていった。もちろんスケルトンちゃんと一緒だ。






[あとがき]

トラン王国の王都名はトラン。国王はクレオン1世。迷宮のあった都市はテルミナ。宰相名はセルダン。

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