第135話 聖剣


 核兵器と見まがうばかりの『神の怒り、怒りマシマシバージョン』の作ったキノコ雲の影響か、上空に雨雲ができ黒い雨が降り始めた。


 タートル号は爆風で薙ぎ払われた木々を踏み越えながら『神の怒り』の中心点に向かっていく。


 俺はタートル号の覗き穴のスリットから敵の残兵がいないか見ているのだが、そういった者は見当たらない。それどころか行けども行けども敵兵の死骸も見当たらない。


 どうなってんだ?


「サティアス、敵の死骸がどこにもないんだがどうなってるか見当がつくか?」


われのような悪魔であれ、◇▼&&#族であれこの世界とは異なる世界の者はこの世界で死ねば跡形もなくなり消えてしまうんです」


 そうなんだ。知らなかった。ということはもし俺がゾンビやスケルトン時代に死んでいたら跡形もなく消えてしまったのか? いや、俺の場合は転生だったはずだからこの世界で生まれたということになっているはずだ。


 どうであれ死んでしまった後のことなどどうでもいいし、神となった今ではさらにどうでもいいが、一つ賢くなった。これでサティアスが死んでも墓を作ってやらなくて済む。


「後は何とか族の残党狩りか。中心地に近づいて行くけば行くほど生き残った残党が減るはずだから、周辺を探した方が良かったが、残党は所詮、鳥人間並みの残党だし、中心点の辺りがどうなっているのかどうも気になるから先に確認してみよう」



 タートル号が『神の怒り』の発動中心点に向かって進んでいく。一時間ほど進むと辺りのなぎ倒された木々の表面が炭化しているものが現れ始めた。『神の怒り』の超高温の熱線で焼かれたのだろう。焼かれた後、衝撃波でなぎ倒されたにちがいない。枝などはほとんどどこかにちぎれ飛んだか燃えてしまったようで、木々に残っている枝は少ない。もちろん葉っぱなどはみななくなっている。


 日も暮れ始めたようで、黒い雨の中、辺りはかなり暗くなってきた。


 それから三十分ほどタートル号が進んだ。そのころには雨も上がって東の空にちらほらと星が見え初めていた。


 ここまで進むと地面には何も残ってなく、表土もどこかに吹きとばされて、なだらかな下り坂をタートル号は下りはじめた。タートル号が踏みしめる地表は一度溶融してガラス化したのか、一歩ごとにバリバリと何かが砕けるような音がする。


 甲羅の周りに数か所開いたスリットから周囲を見ると、この坂はすり鉢の地形の一部で、すり鉢の底が『神の怒り』の中心点のようだ。


 あれ? すり鉢の底に何かキラリと光るものが見えた。


 トルシェではないがその光り物が気になった俺は、タートル号がすり鉢の底まで下りきったところで、ハッチバックから外に跳び下りた。


「これは剣なのか?」


 すり鉢の底に大き目の剣、いわゆる大剣がガラス化して砕けたような土砂に半分埋まったような感じで落っこちていた。


 拾い上げたところ、高熱を浴びたはずだがどこも傷んでいない。両手持ちの長めの持ち手には革が巻いてあったがそれも全く傷んでいなかった。不思議なものだ。


 おそらくこいつは相応の大剣に違いない。剣の腹?側面に何やら読めない文字だか模様が表裏に刻まれている。俺が持ち上げたらその模様が少しの間青く光った。カッコいじゃないか。剣そのものの材質は俺では分からないが、うっすらと青みを帯びた銀色だ。ただ、両刃の剣、どちらの刃も潰してあるような感じで切れ味は全く期待できない。俺が振るえば刃が有ろうがなかろうがそんなに差はないので問題ない。それにこれはいわゆる大剣だ。叩き切るつもりで思いっきり振り回すだけで十分だろう。


 一応こいつを鑑定しておくか。ワクワクだな。


「鑑定!」


 別に声に出して言う必要などないのだが、これも様式美の一つだ。


鑑定結果:

名称:*****

種別:聖剣 (銘なし)

特性:勇者のみ装備可能。魔族に対する各種の特効攻撃。異世界連結門封鎖」


 なんだか、すごいものを拾ってしまったが、勇者しか装備出来ないらしい。とはいえ、俺は女神さま。どう見ても勇者の上位互換のはず。そう思って聖剣を振り回したら普通に使える。ザマー見ろ! 謎の勝利宣言ではあるが、思った通り俺でも難なく使えこなせるようだ。


 シュッ! シュッ!


 風切り音が気持ちいい。


 俺が悦に入って大剣を振り回していたら、トルシェとアズランがタートル号から降りてきた。


「ダークンさん、いいですねー、それ」


「カッコいー!」



 振り回していてすっかり忘れていたが、この聖剣、『魔族』とか『異世界連結門』とか俺の理解できない鑑定結果が出てたがあれは何なんだ?


「トルシェとアズラン、この剣をさっき鑑定したところ、聖剣なんだそうだ」


「ほうほう」


「すごい!」


「名前は無いようなので、ワンルームに帰ったら名前を付ければいいだろう。気になったのは、こいつの特性として『魔族に特効』とか『異世界連結門封鎖』とかあったんだが、『魔族』とか『異世界連結門』とか知ってるか?」


「初めて聞きました。『魔族』はサティアスみたいな悪魔なのかな? 『異世界連結門』の方はさっぱり見当つきません」


「私も全然です」


「そうか。『魔族』はどうでもいいが、気になるのは『異世界連結門』なんだ。サティアスが別の世界からこの世界にやってくるのは大変手間がかかるとかさっき言ってたろ。そのとき、何とか族は簡単に世界を渡る方法を見つけたかもしれないと言ってなかったか?」


「確かにそんなことを言ってました」


「『異世界連結門』がいかにもその方法のような気がするんだよな」


「ということは、どこかにその『異世界連結門』があるかもしれないということですね」


「『神の怒り』で破壊してしまったかもしれないが、まだどこかにあるかもしれない。もしそんなのが壊れずにまだあるようなら、壊しておいた方がいいだろ?」


「そうですね。でも、どの辺りにあるんでしょうか?」


「そうだな。何とか言う王国が滅んだって言ってたろ。なすすべなくそれも短時間で。ということは、その滅んだ国の王都近くにあるんじゃないか?」


「可能性は高そうですね」


「で、その何とかという国の王都はどの辺りかアズランは分かるか?」


「うーん。ここからもう少し北の辺りじゃありませんか? 取りあえず北に向かっていきましょう」


「それしかないな」


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