第134話 黒い雨
捕虜に取った鳥人間の言葉が全く分からないので、いつも役に立たないサティアスが何かの役に立たないかとふと思って、鳥人間の言葉を聞かせたら言葉が分かってしまったようだ。
「ここから出せと言ってます」
初めてサティアスが役に立ったのだが、
「サティアス。お前、この鳥人間を知っているのか?」
「はい知ってます。こいつは◇▼&&#族の斥候です」
おそらく◇▼&&#はサティアスでも訳せない特殊な言葉なのだろう。俺では聞き取ることもできなかった。
「それじゃあ、こいつらの目的を聞いてくれるか?」
「◇▼&&#族の目的は聞かなくても知ってますよ」
「ほんとか? 今日はずいぶん役に立つな。それで?」
「
「この世界ということは、こいつは別の世界からこの世界に来たってことか?」
「我ら悪魔もこの世界とは別の世界に生きていますが、こヤツらは我らともまた違う世界に住んでいます。我らがこの世界を訪れるためにはそれ相応の対価が必要なためおいそれとは訪れることはできません。しかるに◇▼&&#族は簡単に移動できる方法を見つけたのかもしれません」
「ふーん。よくは分からんが、この世界にとって害虫以下の連中ってことだな。元より皆殺しのつもりだったが、改めてその気持ちが強まった。ここから先は既に何とか族に蹂躙されてるわけだから、神の怒りで焼き払っても問題ないだろう。
二人ともタートル号の中に。中に入ったらタートル号の腹を地面に着けて衝撃に備えてくれ」
「はい」「はい」
トルシェは宙に浮いた鳥人間の入った見えない檻を操作してタートル号の中に入れ、サティアスの入った鳥かごを持ったアズランと一緒にタートル号の中に入った。すぐにタートル号が足を折って腹が地面に着いたので、
「行くぞ! 『神の怒り、怒りマシマシバージョン』!」
上空に雲の渦が巻き始めた。今回の中心点は五十キロほど北に定めている。
渦の中心から地上に向かって真っ白い光柱が立った。中心点はここから地平線のはるか先のはずだが、光柱の輝きはかなりのものだった。
輝きが収まりしばらくして、まず足元が振動し、次に立ち木をなぎ倒して衝撃波が襲ってきた。タートル号の甲羅の上で両足を広げ腰を沈め両腕でヘルメットをかぶっていない顔をガードして衝撃波に耐える。
次に襲ってきたのは樹木の枝や砂礫を含んだ熱突風だ。これにも何とか耐え、次の吹き戻しに備える。
吹き戻しは温度がかなり下がり勢いも衰えていたので俺にとっては大したことは無かった。
タートル号もひっくり返ることも無く、いってこいの突風に耐えてくれた。
木々がなぎ倒された前方はるかかなたにはキノコ雲がもくもくと昇っている。ちょっとやり過ぎたか? やっちまったものは今さらだ。最初のころリンガレングが『神の怒り』を使うと有害放射線がなんちゃらとか言っていたが、今回は確実にそういったものが発生したな。
これまでの『神の怒り』だと破壊が完了すると渦巻いていた雲がすぐに晴れて青空がのぞいたのだが、今回はだんだん雲行きが怪しくなってきた。これは降るな。
俺もハッチバックからタートル号の中に入ると、見えない檻に入った鳥人間はおとなしくしていた。
「トルシェ。タートル号を今の中心点まで進めてくれ。このまままっすぐ五十キロほど先だ。どんな塩梅か見てみよう。途中で敵の生き残りがいないか確認しながらだな」
「はーい。しかし今のはすごかったですねー。敵も地面の上とか空中にいたらまず助からなかったんじゃないですか?」
「そのつもりでちょっと気合を入れたからな。あれ以上やると、ここらまで吹っ飛んだかもな。
ところでサティアス、お前、鳥人間の言葉は分かるようだが喋れるのか?」
「ある程度は喋れますが、難しい会話はできません」
正直は美徳ではあるな。これ以上サティアスが役立ったらサティアスじゃなくなるし。
「会話もできないし、こいつの世界を叩き潰すわけにもいかないんなら、こいついらないよな」
「ダークンさん。体のつくりを調べたら何かわかるかもしれませんよ」
「生体解剖か。トルシェは考えることが過激だなー」
「いやー、それほどでも」
何を言っても褒められていると思うのはいい性格だし、精神衛生上きわめてよろしいよな。しかし、アンデット経験者の俺だが捕虜を一思いに殺すならまだしも、生体解剖はしたくはないぞ。
俺たちの会話を聞いていたサティアスがオウムのくせに何か言いたげな顔をしている。
別にサティアスを解剖しないから安心しろ。
「解剖はこいつが死んでからでいいだろ。この鳥人間は何を食べるのかな? まさか人間ってことはないよな?
サティアス、何か知ってるか?」
「はい、女神さま。こいつらは口に入るものなら何でも食べます。多分人間も食べると思います」
サティアスオウムの言葉だが、確かに檻の中で今はじっとしている鳥人間の人相は凶悪に見える。実際凶悪であろうとなかろうと俺たちにとってはもはや駆除対象だから同じだ。
「ということは、適当に残飯でも与えておけば死なないってことか。水は飲むのかな?」
「水そのものを飲むのか、食べ物から吸収するのかは分かりません」
「ふーん。捕虜をあえて虐待する気はないが、別にどうなってもいいしな」
「ダークンさん。雨が降ってきました。何だか、雨が黒く見えるんですが?」
「どれどれ」
タートル号の覗き窓のスリットから外を見ると確かに黒い雨が降っている。スリットの縁から飛び散った雨のしずくが床にはねるが、確かに黒い。しずくの散った床をガントレットを取って指で触ると、ざらざらとしている。火山灰か何かを雨に巻き込んだような感じだ。先ほどの『神の怒り』でできたキノコ雲が雨雲を呼んだようだ。
この雨の中に放射性物質が入っているのかいないのかは俺では分からないが、何が入っていようが俺たち三人にとってどうってことはないだろう。むろん悪魔のサティアスも同様だ。捕虜については知らんが、多分何ともないだろう。
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