第136話 異世界連結門封鎖


 聖剣を『神の怒り』の発動中心点で拾った俺たちは、タートル号に戻り、一応サティアスにも『魔族』と『異世界連結門』について尋ねてみた。


「サティアス、どうだ? 何か知らないか?」


「『魔族』とはおそらく、◇▼&&#族のことだと思います」


 そうすると、『異世界連結門』も何とか族がこの世界につなげた門ということになりそうだな。


「おそらくその通りでしょう」


 何だか、サティアスオウムのくせに偉そうな軍師気取りの喋り方だ。今まであんまり出番セリフもないサティアスだから、自己アピールしてるんだろう。そこは評価してやらねばなるまい。サティアスが何かのはずみで死んでしまって消えてしまっても、墓ぐらい作ってやるとするか。


 そう考えている間にもタートル号は北に向かって進んでいる。おそらく今タートル号が進んでいるのはノルド王国の領土だった地域だろうが、辺り一帯は何もない荒野だ。『神の怒り』で焼き払ってはいるが、その前に魔族によって焼き払われたような気がする。


 前方をスリットのぞきあなから眺めていたら、遠方になにやら真っ黒い建造物らしきものが見えてきた。何も形の残ったものは残っていない荒れ地にただ一つ建っている。


「あれじゃないか?」


 その黒い建造物は星空の下で真っ黒に見え、いかにもな雰囲気がある。


「目立った建物が何もないこの荒れ地の中で建っているところは怪しいですね」


「トルシェ、タートル号をアレに向かわせてくれるか?」


「はい」


 タートル号が黒い建造物に近づいていく。結構デカい。よく見ると真中はアーチ状に空間が開いているのだが、その先は全く見えない。


 いったんハッチバックから跳び下り、建物のすぐそばまで歩いていくと、そいつの表面には何だかわからない趣味の悪い赤い模様が浮き出ていた。アーチ状に空いた空間のその先は真っ黒で何もない。まさに虚無に引き込まれるような不気味さだけがある。


 こいつは速やかに破壊するに限る。


「おーい、タートル号をこいつから少し離してくれ。そうだな、百メートルくらいは下がってくれるか」


 タートル号が俺の声を聞いて下がったのか、俺の声を聞いたトルシェが指示したのかはわからないが、タートル号はバックして黒い建物、門から離れていった。


 俺もタートル号と一緒に建物から離れ、


「『神の怒り』!」


 威力を抑えて『神の怒り』を発動した。


 渦巻く上空の雲の中心から白光が建物に直撃した。


 だが、何も起きなかった。いくら威力を絞ったからと言って何も起きないとは。


 いったいこいつは何なんだ。今さらだが鑑定してみるか。


名称:魔界ゲート

種別:異世界連結門

特性:魔界と呼ばれる世界とこの世界をつなげる門。鑑定不能の金属製。現在魔素充填率じゅうてんりつ百パーセント、ゲート開放中。不壊。


 予想通りの異世界連結門だった。名前は魔界ゲートというのか。ただ、最後にわざわざ『不壊』とあるところを見ると、女神である俺でも破壊できないようだ。こいつは困ったな。


 壊れないものにかかずり合っているわけにもいかないが、ここからまた何とか族だか魔族だかが現れても困る。なんとかせんをしたいものだ。


 俺が魔界ゲートの前で思案していたら、トルシェとアズランがタートル号の中からやってきた。


「こいつを鑑定したら『不壊』だった。俺でもこいつは壊せないようだ。ここからまた何か出てきたら困るんで栓をしたいんだが、何かいい手はないかな?」


「魔法で壁を作っても壊されればそれっきりだから難しそうですね」


「中に入って、向こうがどうなっているか確かめて来ましょうか?」


「アズラン、それは止しておけ。向こうに空気があるかどうかも分からないし、俺たちの常識が通じない可能性もある。何もそこまでする必要はない」


「分かりました」


「ようは、ここから敵が現れたら斃せばいいんだろうから、スケルトンとかこっちの兵隊をたくさん出しておきましょうか?」


「それも手だな。鳥人間を見る限りそれほど強そうではないから、スケルトンで十分だろう。ただ、また鳥人間みたいに空を飛ぶヤツが現れたらスケルトンだけだと困るから、こっちも空を飛べる別の何かが欲しいな」


「そしたら、鳥神を呼びましょうか? あいつならちょっとやそっとじゃやられませんよ」


「そうかもしれないが、相手が数出てくるとこっちが空を飛べるのが一体だけだと厳しいぞ」


「それなら、何がいいかなー?」


「トルシェ、それならグリフォンなんてどうかな?」


「アズラン、見たこと有るの?」


「お話で聞いたことがあるだけ。鷲の頭に鷲の翼、胴体がライオンのおとぎ話の生き物」


「アズランはそういったおとぎ話が好きなのか?」


「はい。親がいなかったので、小さい時からそういったものに憧れがありました」


 なんだか、重い話になってきたな。


「トルシェ、アズランのためにもグリフォンを召喚だかなんかで呼んでやれよ」


「ちょっと待っててくださいね。

 ……。召喚だと呼べないみたい。グリフォンってモンスターじゃないのかな?」


「おとぎ話の生き物だそうだから、トルシェのお得意のホムンクルスで何とかできないか?」


「うーん。具体的に想像できるものがあれば何とかなるかも」


「わかった、それじゃあ俺が地面にグリフォンの絵を描いてやろう」


「ダークンさん、絵がうまいんですか?」


「女神さまに不可能は無い。まあ、見ていろ」


 おれは腰に下げたエクスキューショナーの鞘をエクスキューショナーごと外して、それで地面に大きな絵を描き始めた。


「顔が鷲だろ? 嘴が大きくて力強い。……、こんな感じかな。

 羽の生えた太い首が胴体にくっついて、胴体の前の方から立派な翼が生えている。

 どうだ? 感じが出てきたろ?」


「おー」「すごい!」


「そして、腹がきゅっと引き締まった胴体からは太めの四つ足で、立派な爪が生えている。それから尻尾が力強く、こんな感じだ。

 最後に全体的な仕上げをして、……、でき上がり。

 フフフ。我ながらなかなかの傑作だ。どうだ?」


「おー。これならホムンクルスを作れます」「すごい!」


「上位の召喚だか合成だから、グリフォンも魔力が抜けずにずーと生きていけそうだろ? それなら、つがいで五、六組作ればそのうち自分たちで繁殖するかもな」


「それは夢がありますね。そうしましょう」


 トルシェがなにやら、むにゃむにゃ口の中で言っていたら、ペアーでグリフォンが生れてきた。それが五組、合計十匹のグリフォンが目の前で生れた。


 その後は、ブラックスケルトンの兵隊を百体ほどトルシェが召喚して、この魔界ゲートの一応の封鎖は完了した。



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