第137話 残敵掃討


 トルシェが魔界ゲートの前にホムンクルスのグリフォンをつがいで計十匹創り出し。ブラックスケルトンを百体ほど召喚した。これで魔界ゲートは一応封鎖できるだろう。


「トルシェ、スケルトンたちは大丈夫だろうが、グリフォンたちは腹が空かないかな?」


「一週間くらいなら大丈夫じゃないかな。一週間何もなければもう敵が出てくることはなさそうでしょ?」


「それもそうだな。そしたら、グリフォンたちは勝手にどこかに行って自由にしていいと言っておいてくれ」


「はーい」


「グリフォンちゃん可愛い」


 やっぱりアズランは生きものが大好きだったようだ。フェアもいるんだから我慢しとけ。しかし、アズランならグリフォンに乗って空を飛べそうだな。これを言ってしまうとまた欲しがりそうだから言わんけど。


 俺は何といってもコロが一番だからな。


 腰に巻いたコロが、嬉しそうにキュっとおれの腰を締め付けた。ような気がする。


「魔界ゲートはこれで大丈夫だろうから、そろそろここを離れて、残敵を見つけて掃討しよう」


「もうほとんどいないんじゃないかなー」


「なんだか俺にはまだいるような気がしてるんだ。女神の勘? そういったものだがおそらく当たっている」


「わかりました。それなら、どっちに向かって行きますか?」


「ここから南は俺たちがやって来た方向だし、北には何もないようだから、ルマーニがあるという西に向かって行ってみないか? 大きな街があればうまい酒もありそうだろ?」


「それは一石二鳥ですね。それでは西に向かっていきましょう。ここから五百キロほどらしいから、十六時間ちょっと。途中敵が見つかって少しくらい手間取っても、明日の昼頃には到着できますよ」



 俺たちは揃ってタートル号に乗り込み、


「西に向かって、出発しゅっぱーつ進行しんこー!」



 俺が前方、トルシェが右側、アズランが左側を覗き穴スリット越しに注意しながら、俺が作った荒れ地をタートル号は西に向かって進んでいく。



 二時間ほどスリットを覗いていたら、星明りの下、前方に数か所煙が立ち上っているのが見えてきた。距離的にいって俺がやった・・・わけではない。やはり魔族だかの残党はいたようだ。


 その中で一番近そうな煙の上がっている場所に向けてタートル号を進めていく。


 そこは村があった場所のようで、屋根が落ちて全壊した数軒の家屋から煙が出ていた。地面には黒焦げになった死体のようなものも何個かころがっていたが、その数は村の規模から言ってそれほど多くは無いと思う。村人たちはうまく避難したかもしれないが、今現在、人の気配が全くないところを見ると、その可能性は低いだろう。


「この村はもう手遅れみたいだ。先を急ごう」


 タートル号は村の廃墟を後にして西に向かって進んでいく。この辺りから舗装はされてはいないが、西に続いている道が現れてきた。



 それからタートル号は道沿いを進み何個所か破壊され焼け落ちた村の廃墟を通過していった。



 そろそろ、零時を回ったあたりで、今度は小都市とでも呼んでいい廃墟に到着した。街中まちなかの広めの道路は石で舗装されていたが、なぜか規則正しく舗装が破壊されて下の土が覗いている。


 破壊された建物はレンガ作りのものや石造りのものも含まれている。各所で火の手も上がっており、前方では何やら物が壊れる大きな音もする。


「この街には魔族がまだいるみたいだ」


「見つけ次第殺していけばいいんですね!」


「頑張ります!」


「俺は一応甲羅の上に出ておく」


「それじゃあ、わたしも」


「私も」



 そういうことで三人揃ってタートル号の甲羅の上に立って周囲を警戒するなか、タートル号は黙々と前進していく。前方の破壊音がだんだん大きくなり、いたるところから聞こえてくるようになった。


 タートル号が街を進み石畳でできた広場に出たところで、そいつらまぞくがいた。


 そこにいた魔族は真っ黒い鎧か何かを着ており、鳥人間とは違ってがっしりした体格だった。そして両手持ちの大型メイスを振り回して破壊の限りをつくしている。ここまで来るとあちこちで上がった人の悲鳴が聞こえてきている。


 アズランは魔族を目にしたとたんフェアを連れて最前線に突入していった。そこら辺を走り回って魔族を『断罪の意思』で殺しまわっているのだろう。


 トルシェは魔族を確認したとたん、小型のファイヤーボールを放ち始めた。やはりホーミング機能があるようで、魔族が逃げようとしてもカーブしながら魔族に命中していく。命中すると、命中個所から五十センチほどの光球が広がり、その光が消えた時には魔族は消えている。やはり魔族は死ねば死体は残らないようだ。邪魔にならなくて便利ではあるが、いよいよ体の構造が気になる。


 いま捕虜にしている鳥人間を解剖したくなってきたが、死んでしまえば消えてしまうとなると万能薬を与えながら解剖するといった一工夫必要だ。いやいや、考えがトルシェ的になってしなった。これがマズい。『慈悲』の権能が失われてしまう。


 広場の近辺の魔族は掃討し尽くしたようで、トルシェはファイヤーボールを放つのを止めて周りを見回している。


「やっぱり、ザコだから歯ごたえないなー」


 トルシェの言うのも分かるが、トルシェの魔法攻撃に耐えられるのはこの世じゃ俺くらいしかいないんじゃないか? アズランなら逃げ切ることはできるだろうがただそれだけだものな。反撃しようとトルシェに近づいたら罠魔法も使えるようになったトルシェだ、何を仕掛けているかわからないし。


 トルシェとアズランの働きで広場の周辺は簡単に掃除できたようだ。そのまま街の外れまでタートル号は進んだが、街は静まり返っている。


 魔族については何とか全滅させたらしい。生存者はいくらかいると思うがそんなには多くなさそうだ。


 しばらくアズランを待ってタートル号を街の外れに停めていたら、アズランが知らぬ間に甲羅の上に立っていた。


「アズラン、その子は?」


 アズランがなぜか小さな女の子を連れていた。その子は何も言わず俺の方を見てじっと立っている。


「魔族に襲われているところを助けました。近くに両親と家族らしい死体がころがっていたのでこの子は今は孤児だと思います」


 アズランがなんだか目をキラキラさせて俺を見る。孤児だからと言って俺たちじゃあ面倒見れないだろ。とはいえ小さな女の子一人をこの真夜中、廃墟になったような街の中に置いておくわけにもいかない。


 この子以外にもかなりの子どもたちが不幸な目に遭っているはずだ。この子だけを助けるのはただの偽善だろうが、俺自身が神なわけで善悪は俺が判断すれば十分だ。


「分かった、アズラン。その子を連れていこう。中に入って何か食べさせて、長椅子の上にでも寝かせてやれ。食べ物はなるべく酒のつまみじゃないこどものたべられるものを選べよ」


「はい!」


 嫌に元気な声で返事をされた。まっ、いっか。



 ルマーニの都が魔族に襲われていたら国そのものが傾いてしまうだろうから、タートル号は残敵を追って都に向けて西進を続けることにした。


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