第127話 王国奪取! 3
壊れた王城の門の向こうからトルシェ2号が特別陸戦隊員全八名を引き連れこっちに駆けてくる。
「おーい、急げよー」
『はーい』
2号と手下の陸戦隊員八名は手ぶらなので、やや迫力に欠けるが、一応建前は魔術師なのでそれでもいいだろ。槍やら剣を振り回す魔術師がいないわけではないだろうが、やはり奇異な目で見られるだろうからな。
やってきた陸戦隊員たちは訓練用の動き易い私物の服を着ているので、この連中がかつての魔術師ギルドの懲罰隊員だったとは誰にも分からないだろう。名まえの上では懲罰隊の方がこれまでの歴史があるぶん第三者的は迫力を感じるかも知れないが、今の逝っちゃった目をした陸戦隊員の方がよほど危険度が高いと思うぞ。何をしでかすかわからない凄味が確かにあるからな。
それでも、先ほどトルシェの召喚したブラックスケルトンの足元にも及ばないのだろうし、目が逝っちゃっているのでまともな仕事を任せることは難しそうだ。
2号は子分たちをタートル号の後ろに整列させて、自分は甲羅の上に上ってきた。
「2号、そこの下にちょっと立派な服を来たおっさんが立ってるだろ? あいつにお前を作ったトルシェのことも含めて自己紹介してこい」
「はい」
トルシェ2号はタートル号から跳び下りて、おっさんの前に行って自己紹介を始めた。おっさんは、俺の隣に立ったトルシェを見上げたり目の前に立った2号を見たりしている。
俺の後ろではトルシェが赤い顔をして笑いをこらえている。しまった! アズランにも見せてやりたかったな。
そんなことを考えていたら、アズランが知らぬ間に俺の後ろに立っていた。
「近衛部隊と憲兵隊は掌握しました。こちらから紙にでも命令を書いてスケルトンの伝令に持たせてやれば両隊とも指示に従うと思います」
「アズランご苦労さま。今さっきすごく面白いことがあったんだが、アズランがいなくてすまなかったな。詳細はトルシェに聞いてくれ」
俺の後ろで、トルシェが事の次第をアズランに説明し始めたが、説明しながら、トルシェが大笑いを始めるし、説明を聞いていたアズランも大笑いを始めてしまった。
それで俺まで大笑い。
俺たちが大笑いしていたら、目の前のおっさんの他に、四、五人のオッサンズがスケルトンに引っ立てれられてきた。新しくやってきた連中も身なりがいい。こいつらもなにがしかの大臣か?
「おっさん、理解できたかな? お前の頼みの綱の魔術師ギルドはもとより俺たちの下請けなんだよ。ついでに、近衛部隊と憲兵隊も俺たちの部隊が抑えたみたいだぞ」
おっさんは、青い顔をしていたが、事実は事実。
「そろそろ、俺たちの軍門に下ったらどうだ? 王さま本人がスケルトンに捕まってここに引きずられてくるころだぞ。
俺たちだって無茶をしたいわけじゃない。今の王さまが俺に国を譲ると言って隠居してもらいたいだけだ。王さまは一族を引き連れて適当な場所に引っ越してくれればそれでいい。お前たち重臣なんだろ? 重臣たちは今まで通り引き続き使ってやるから安心しろ。ただトップが俺になるだけだ」
「今の言葉は本当なのか? いや、本当ですか?」
「『常闇の女神』に二言は無い。
おい、ジ-ナ、ちょっと上まで上がって来てくれ」
『はい』
ジーナがスケルトンちゃんと一緒にハッチバックから甲羅の上まで上がってきた。スケルトンちゃんのスカート姿が一種異様ではあるが、それを見ても目の前の大臣たちはさして驚かなかった。つまらん。
「俺自身がこの国をどうこうするのは面倒だから、俺の代わりに執政官を置く。ジーナ・ハリスだ」
「どうも、ジーナ・ハリスです。少し前まで軍から派遣されて警備隊の監察官をしてました」
「ジーナ、相手は宰相かもしれないが、いまやお前の方が立場が上なんだぞ、上役なら上役らしくちゃんとしなきゃだめだ」
「はい。申し訳ありません。
私がジーナ・ハリスだ。数日前、国境の街ヤルサが、ハイデン軍一万五千によって攻撃された。まもなくヤルサから第一報が届くと思うが、そのハイデン軍をここにおられる女神さまが、文字通り殲滅してくださった。同時期ヤルサの北にある街道の砦に対しハイデン軍五千が集結したが、これも女神さまが殲滅してくださった。
そして、ヤルサの知事がハイデン軍に通じていたこと、さらに街道上の複数の知事がヤルサに通じていたことが分かっている。
極めつけはこの王都においても複数の有力者がハイデンに通じていた。それらの証拠をすでに得ている。
女神さまが動いていなければ、一カ月後、この国はハイデンに飲み込まれただろう。
そのことを感謝して、今後の身の振り方を考えていただきたい」
今のジーナの言葉に宰相たちが顔を見合わせながら何か言っている。中の一人だけその会話に加わらず明らかに挙動がおかしい。
「ジーナ、そこの連中の中には今の話の裏切り者はいないのか?」
「一名だけいます。どうしますか?」
「自供させよう。その方が他の連中も納得するだろうしな。
それじゃあ、拷問はアズランに頼もうか。痛めつけて死にそうになったら『万能薬』で治してやって、また死にそうになるまで痛めつける。気が狂うかもしれないがそのくらい構わないだろ?」
さっきの挙動不審男が足を振るわせて青い顔をしている。分かりやすいヤツだ。
「ジーナ、そこの青い顔をしたヤツが裏切り者か?」
「はい。その男です」
甲羅の上でジーナの隣に立っていたスケルトンちゃんが素早く反応し、スカートをはいたまま前方伸膝一回転ひねりを決めて、逃げ出そうとしたその男に馬乗りになって取り押さえ、地面に引き据えた。スケルトンちゃんは体操も体術も得意なようだ。
「話す、話すから拷問だけはよしてくれ。確かに私はハイデン軍が王都に迫ったら王都を混乱させるために私兵を動かすと約束していた」
なーんだ。何もしないうちから正直に自供を始めてしまった。つまらんヤツだ。どうせ反逆罪で死ぬなら痛くない方がいいものな。
「そいつをどっか別のところに連れて行って逃げないよう監視しておけ」
俺がそう言ったら、スケルトン兵が二人がかりでその男を引きずってどこかに連れて行った。
今の裏切りの自白が宰相を始め大臣たちにクリーンヒットしたようだ。それはそうだろう、大臣の中に裏切り者がいたわけだし、俺たちがハイデン軍を撃退したという話も一気に信ぴょう性が増したはずだものな。
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