第16話 壊滅『赤き左手』
アズランに追い詰められたおっちゃんが、じりじりと後退していき、とうとう組織のナンバーワンの部屋の扉の前まで下がってしまった。
それ以上下がると、おっちゃんは部屋の中に入らなければいけなくなるのだが、あいにくと扉は外に向かって開く作りになっている。
さて、これからどうする? おっちゃん。
しかし、このおっちゃんはそれなりに応戦しているが、ナンバーワンは一体全体何をしとるんだ? まさか出張中じゃなかろうな?
ほかの連中もどこに逃げ隠れしているのか分からないが、見かけてもすぐ逃げるし。積極性が見受けられない。
俺が『赤き左手』に対して経営アドバイスするなら、まずそこを指摘するぞ。ここの組織で真面目に働いていたのはアズランや最初のハゲ男くらいのほんの一握り、後は組織におんぶにだっこのダニのような連中だったんじゃないか?
そんなんだから、経営が苦しくなって、白い粉にも手を出さなきゃいけなくなるんだ。
暗殺組織の経営について俺がとやかく言っても仕方がないが、どうも
そういえば、と思い出して振り返ると、トルシェがいない。おっちゃんの部屋から物音がするようだが、どうもトルシェが金目の物を物色しているらしい。
妙な鼻歌が聞こえてこないところを見ると、あまり成果は上がっていなさそうだ。
そっちのトルシェは放っておいて、いまは戦いをじっくりゆっくり観戦しよう。
おっちゃんの手足は長いので、手足に体を加えれば、小柄なアズランが短剣を持った間合いよりも広い間合いを持っている。しかし、先ほどのアズランの反応速度を体感している以上、仕掛けるわけにはいかないようだ。
そしてまた、アズランが無言で一歩前に進む。完全にお互いの間合いの中だ。おっちゃんもここで何もしなければ、そのままアズランの短剣に切り刻まれてお
アズランが短剣でおっちゃんをたたき切って闘いは終わるかと思ったのだが、アズランはそうはせず、かわりにおっちゃんの胸を右足で蹴りつけた。俺などからすればアズランの蹴りなど大したことはないのだが、おっちゃんは辛うじて両腕で胸をガードはしたが、頑丈そうな扉を破って後ろの部屋の中に蹴り込まれてしまった。
ドーっとおっちゃんが息を吐きだしながら吹っ飛んだあと、部屋の中から、
ガシャガシャン、と何かがぶつかった音がした。
アズランが部屋に一歩入り、俺もその後について部屋の中をのぞいたら、おっちゃんが大きな机にぶつかって仰向けになって転がっていた。
残念なことにおっちゃんしかこの部屋の中にいないようだ。組織のナンバーワンはやはり出張中だったようだ。今となっては諦めるより仕方がない。
さて、肝心のおっちゃん。死んではいないはずなのだが、頭を机の角に打ったのか今のところ動きはない。
不用意に近づいたところを何かの手を使って反撃しようと思っているのかもしれないが、プロにはそんなみえすいた演技は通用しないと思うぞ。
うん? よく見ると、おっちゃんの両手が黒ずんで、そこから溶け始めている。あれっ? よーく見たら息もしていない。
あー、さっきの『暗黒の涙』の付着したアズランの靴で蹴り飛ばされて自爆したのか。結局こいつは何だったんだ?
「アズラン。そいつ、もうすぐ死ぬな」
「そうですね。まあ、この世界は弱いものは死ぬ。そういうものですから」
「厳しい世界だとは思うが、その割にみんな弱っちいな」
「すみません」
「おまえが謝る必要はないだろ」
「そうですが、私もダークンさんに助けられる前まで、組織のナンバースリーだと粋がっていた自分が恥ずかしいです」
「それは過去のことだし今は俺の眷属ナンバーツーだ。出世してるじゃないか」
「はい!」
アズランは素直だねー。
で、うちの問題児は?
と、うわさをすればではないが、おっちゃんの部屋の物色が終わったようでブツブツ言いながらこの部屋にやってきた。
「ぜーんぜんダメ。金目の物がさっぱりありましぇーん。この部屋が最後だけど、見たところ、そこの机くらいかなー? 棚の上にも目ぼしいものはなさそうだし」
そう言いながら、床に転がって半分溶けたおっちゃんを「じゃま!」とか言って部屋の隅に蹴飛ばして、机の引き出しの中を物色し始めた。
「ダークンさん、なんだか契約書のようなものが何枚か出てきました。あとはゴミですね。机もよく見たらガタが来ているみたいだし、ダメだ」
「ちょっとその契約書とやらを見せてくれ」
「どうぞ」
受け取った紙たばを見ると、暗殺の請負書が数枚と、『パルマの白い粉』の受取書の写しが一枚入っていた。受取書のあて名は『闇の使徒』となっていた。もちろん住所などどこにも書いてない。
うーん、つながって来たのはいいが、ナンバーワンは取り逃がしてしまったもののこの組織はもうじき壊滅するわけだし。なんであれ、『闇の使徒』は叩き潰すわけだからあまり意味がない。
紙たばを部屋の中に投げ捨てて、
「撤収しようか」
「はい」「はーい」
最初の出入り口近くまで戻った俺たちは、そこにいた数人をコロのエサにして、ついでに瓦礫をコロに食べさせ道を開いてアジトの外に出た。
そこから、少し離れて、
「『神の怒り』発動!」
星の
後に残ったのは赤い溶岩状の池だった。上昇気流が起きたのか、周囲の空気がその池の方に向かって緩やかに流れていく。
かなり抑えた『神の怒り』だったので爆風はなかったし有害放射線も発生しなかったハズだ。放射線程度、発生していたとしても俺たちには影響ないだろ。
壊滅した連中のアジトの周りはまばらに家の建つ一画だったおかげか、火事にはならなかったようだ。たとえ火事になったとしても、中の人間は潰れるかも知れないが、『神の鉄槌』で消火は簡単だからな。
「さーて、いちおう一仕事終わったし、駅舎に帰って部屋で一休みするか。組織のナンバーワンは見つからなかったがいずれ出会うこともあるだろ」
「あっ!」
「どうした、トルシェ?」
「花火を打ち上げるのを忘れていました」
「さっきのも結構派手な演出だったから、花火は今度でもいいだろ」
「はーい。つぎこそ忘れません」
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