第17話 次のターゲット、『闇の使徒』


 暗殺ギルド『赤き左手』のアジトに殴り込みをかけて、ナンバーワンは取り逃がしたがアジトにいた連中は文字通り皆殺しにした。


 その帰り道。


 俺はナイトストーカーを収納して普段着に着替えている。コロはそのままベルトに擬態中だ。


 トルシェとアズランは上着の下に鎖帷子を着込んでいるが見た目は普段着だ。どちらも血などで服は汚れていない。


 今回は水揚げが少なかったためか、あまり楽しそうにはしていないトルシェ。


 一応自分の古巣であり仇のいた組織を壊滅させたアズラン。こっちは無表情でも何を考えているのかは想像はできるが、トルシェほど単純ではないだろう。妖精のフェアはアズランの肩に乗って腰かけている。


 そしてこの俺、さっきから大型のクロスボウの名前を必死になって思い出そうとしている。


 うーん。


 そうだ! 大型のクロスボウのことは、バリスタとかいわなかったか? 確証はないな。


 バリスタというと、コーヒー関連の言葉にもあったと思うが、そっちの方もはっきりしない。どうでもいいか。


 夜警に見つからぬように道を選んで駅舎にたどり着き、取っていた部屋に入って、寝間着に着替えてその日はベッドに入った。部屋は四人部屋なのでもちろん俺のべッドもある。ベッドに横になるのは実に気持ちいい。




 翌朝。少し遅めに朝食をとって、駅舎を出る。


 駅舎から王都内に向かう乗合馬車が出ていたが、それには乗らず、歩いて王都に入ることにした。


 王都の西門を入り大通りを進んでいくと、左右の建物はテルミナの街なみのように木と漆喰づくりの建物が多いのだが、なかには石組の立派な建物も建っている。



「ここが王都のメインストリートで、このまままっすぐ進むと官庁街、ここからでも小さく見えますが、突き当りには王宮があります」


 アズランの解説を聞きながら歩いていく。


 トルシェは、何を気にしているのか分からないがキョロキョロ周りを見回している。


「おい、トルシェどうした?」


「立派な建物が多いなと思って」


「そりゃ、王都っていうくらいなんだから立派な建物だってあるだろう」


「わたし、考えたんです」


「うん? 何を?」


「たとえば、道に金貨が転がっていたら、誰だって拾っちゃうでしょ?」


「金貨はあんまり転がってはいないだろうが、拾うだろうな」


「でしょ。道端に建ってる建物って、見方を変えれば道に落ちてるんじゃないかって気づいたんです」


「ようするに、トルシェは、道に落ちてるものは何だろうが拾っていいと思ってるわけか?」


「そうなんです」


「それって、泥棒の発想と全く変わらないぞ」


「……、ということは、泥棒は落っこちてるものを拾ってるだけだったんですね」


「いや、ちがうだろ。もしお前が、道端に家を持っていて、金貨を100枚くらいその中に置いてたとする。そこに知らない誰かがやって来て『いい物が落ちてた、もっていこ』とかいって金貨を拾って持っていったら嫌だろ?」


「そいつはすぐに殺しちゃいますから問題ありません。でも確かに、勝手に家の中に入って来て、勝手に・・・死体になられても嫌ですね」


「ちょっと、いやかなり違うと思うけれど、そういうことだ。そのかわり、俺たちに敵対してるやつは容赦ようしゃしなくていいんだから、それまで我慢してろ」


 トルシェの持論を聞いていたら頭が痛くなってきた。俺がその後黙っていたら、トルシェはまた何かブツブツ言いながらキョロキョロと立派そうな建物を見ている。いや、物色している。これはもう病気だ。



「アズラン、王都内の見どころはその王宮ぐらいなのか?」


「王宮は中に勝手に入るわけにはいきませんから近くから眺めるだけなので見どころというほどでもないと思います。あとは、芝居小屋の集まった演劇通りとか、大きなお店の集まった中央商店街とかでしょうか」


「あんまり見るものはなさそうだな。『闇の使徒』のアジトの情報が手に入りそうな場所ってどこかないかな?」


「いちおう、組織が使っていた情報屋というのがありますが、わたしたちが昨日組織をぶっ潰してしまったので、今はどこかに逃げて隠れていると思います」


「それもそうだな。あとは、心当たりはないか?」


「そうですねー、『パルマの白い粉』を扱っているような売人や店を探すのはどうでしょう」


「それも手ではあるが、そいつらがどこにいるのかはわからないぞ」


「結局、路地裏とかを地道じみちに歩き回って探すしかないかもしれません」


 まあ、そういうものだよな。千里の道も一歩から。ちょっと違うか。



「ダークンさん? あそこにいるのは、『闇の使徒』の覆面ふくめん男たちに見えるけど」


 トルシェは押し入り強盗先を物色していたと思ったが、それ以外にもちゃんと街の中を見回していたようだ。


 確かに黒覆面の男が二人連れで、そこまで大きくない荷車を引いて、大通りから続く脇道を歩いていた。二人が着ているのは灰色のローブ。一人が荷車を引いて、一人がその横を歩いている。荷車の上には、厚手の布のようなものが丸めておいてあった。テルミナでもそうだったが、あの連中隠れているわけではないみたいだ。


「俺たちが後をつけるとうまくないから、専門家のアズランがやつらをつけてくれ。アズランの居場所は俺にはなんとなくわかるから、遅れてついていく」


「分かりました」


 そう言ってアズランが姿を消した。今の俺ならアズランがどのあたりに潜んで尾行をしているのか分かるが、一般人では目で追うことも、どこに潜んでいるのかということも分からないだろう。





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