第67話 スケルトンちゃん
「書類を憲兵隊本部の本部長に直接届けてきました。準備をして一時間ほどでここに到着するとか言ってました。あれから十分経っていますから、あと五十分ほどになります」
「アズラン、ご苦労さん」
「ところで、この黒い骸骨のお嬢さんは?」
「アズランがお使いに出ている間に、トルシェが召喚したんだが、あと三カ月も消えないらしくて、可哀そうだから俺の服を着せてやったんだ」
「顔の方はまだ許せますが、スカートから覗いた足が何とも奇妙ですね」
「そこは仕方がない。あり合わせで我慢してもらうしかない」
「それで、このスケルトンをこれからは連れ歩くんですか?」
「それはさすがにマズいから、この部屋に置いておこうと思っている」
俺がスケルトンを置いていくと言ったら、ビジネスウーマンが驚いて、
「えっ? この部屋に置いておくんですか?」
「そのつもりだ。別に場所を取るわけじゃないんだから、それくらいいいだろ? お前の護衛にもなるし」
「そうですね。分かりました。我慢します」
「我慢するってほど嫌なのか?」
「いえ、そんなことはありません」
ビジネスウーマンが目をそらせながら小さな声で答えた。そんなにスケルトンが嫌なのかなー? スケルトンかわいいじゃないか。
どこかに置いておくとして街中を歩かせるわけにもいかないし、可哀そうではあるが諦めてもらうより仕方がないだろう。
おっ! いいことを思いついた。俺の最大の権能である『闇』から、ビジネスウーマンに加護を授けてやろう。そうすれば、闇を愛して、スケルトン大好き人間になるに違いない。
「お前にいいことをしてやろう。これから、俺がおまえに『闇の加護』を授けてやる。ありがたく受け取れ」
「は、はい」
俺はもっともらしく右手の平をビジネスウーマンの顔に向け、
「我、常闇の女神の名のもと、このものに加護を授ける」
俺の手のひらから何やら金色の光が伸びて、ビジネスウーマンの体を包み込んだ。そして光が徐々に収まっていった。
やればできるとは思っていたが、これほど簡単に加護を授けることができたとは、我ながら驚きだ。
「いま俺の加護の中で最も強い
「はい、私の体が金色の光に包まれたあと、体が軽くなったような気がしました。それ以外の変化は今のところ分かりません」
「もうスケルトンが怖くなくなったはずなんだがな」
「あれっ? さっきはあんなに怖かったのに、よく見れば青いスカートに白いブラウスも似合っていてスケルトンちゃんって呼びたくなってくるほどこの子キュートだったんですね」
かわいいとは思うが、さすがに女装した真っ黒い骸骨の着ている物がそんなに似合っているとは思えないぞ。
「いまおまえに与えた加護で、闇にまつわる者への不必要な恐怖心はなくなったからだ。あとは、闇の中では能力が上がるはずだ。当然夜目も利くようになったと思う。夜が来るまでそこいらの確認はおあずけだが、きっと満足できると思うぞ」
俺自身、俺の与えた『加護』の効果のほどは全く分からないのだが、手ごたえは感じた。ような気がする。
「ところで、トルシェ。このスケルトンちゃんはそれなりに強いのか?」
「どれくらい強いのかというと、正確には分からないけど、『鳥神』よりは強いんじゃないかな」
「あれより強いのか? あの爆発でも何ともない?」
「それはそうですよ。生れてはじめて召喚したあの『鳥神』の攻撃で何とかなるようなものなんてわたしが召喚するわけないじゃないですか」
「そうなのか?」
「『鳥神』の時はグレーターデーモンの召喚をそのまま真似てみたので無駄の多い召喚だったけれど今回は無駄を省いて効率を追求して圧倒的な力強さ、打たれ強さ、素早さ、正確さを実現しています。一般人ではこのスケルトンの動きは見えないんじゃないかな。気づかぬうちに首が落っこちているみたい感じで」
「ほう。やたらスゴイんだな」
「今度召喚する時はもっとすごいのを召喚してみるから期待してていいです」
「わかった。期待しよう。それじゃあ二人とも、そこまでのスケルトンなら、こいつをここにおいてその女を守らせておけば十分だろうから、俺たちはそろそろどこかに繰り出して酒盛りでもしないか?」
「そうですね。今日は何だか働きづめだったような気がするので、陽の沈まないうちから飲むお酒は実に美味しそうです」
「賛成です!」
「それじゃあ、監察官だったけ? そういうことなんで、スケルトンくんを置いてくから仲良くやってくれ。
明日までには、ここのことも片付いているだろうから、明後日くらいには約束の物をもらいにここに来る。できれば書面でちゃんとしたものがいいな。その時スケルトンちゃんは回収するから」
「はい。分かりました」
話をしていたら、下の方が騒がしくなったようだ。憲兵隊が到着したらしい。警邏の連中と兵隊では戦闘力に差があるから、小競り合いにもならないだろうし、まかり間違えば捕まってしまうだろから憲兵隊にちょっかいを出す
「それじゃあな」
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