第66話 警備隊本部3、送還不能
警備隊本部長の子分らしき連中が逃げ散ってしまったので、当面監察官の身の安全ははかられたようだ。
「君たちご苦労だった。大きい方の君が全身鎧を一瞬で着てしまったのには驚いたよ。
それで、この黒い不気味な骸骨は小さい方の君が召喚したのだろうけれど、送還してくれないかな。近くに立っていられると落ち着かないからな」
「送還については今まで見たことがないので、ちょっと考えないとすぐにはできないな。放っておけばそのうち込めた魔力が抜けていって消えちゃうはずだけど、今回はちょっと多めに魔力を込めたから長持ちすると思うよ」
「そうなのか。困ったな。長持ちというと三時間くらいかな?」
「三カ月は持つんじゃないかな。『
「
「午前中、魔術師ギルドに行ってそこの評議会議長をしていた召喚術師と魔術勝負をしたとき呼び出したのが鳥神。相手はグレーターデーモンを呼び出したけど、鳥神に比べれば、そんなに強くななかったな」
「ということは、魔術師ギルドのトップに勝った?」
「そういうこと。今では、わたしがあそこの評議会議長ってことになってる」
ビジネスウーマンは半分口を開けて、大きく目を
「そ、そうなのか。軍でも魔術師ギルドと共同で研究している分野もあると聞いているのでよろしくお願いする。いや、お願いします」
どうやら、この女も、俺たちがそこいらの冒険者などとは違うということに気づいたらしい。上下関係を微妙に感じ取れるところはさすがは公務員といったところか。
「その魔術師ギルドのトップをアゴで使っているきみは。いえ、あなたは?」
「俺はおまえの言う自分のことを『女神』だといっている若い女だよ。
まあ、魔術師ギルドと軍との共同研究については
何が是々非々なのかは分からないが、大物ぶって偉そうな言葉の一つくらい使ってみたかっただけだ。
「そもそも、軍とか言っているが、この国は戦争でも始めるつもりなのか?」
「いえ、わが国から戦争など無駄なことはしませんが、西の大国ハイデンに対しての防衛の意味合いです」
「ハイデン? どこかで聞いた名前だがどこだっけな」
「確か『闇の使徒』の本山があるとか、アジトで誰かが言ってませんでしたか?」
「ああ、あそこか。機会があればぶっ潰してやろうと思っていたから、軍隊がこの国に攻めてきたら、まず手始めにその軍隊を叩き潰してやるか」
「ただの軍隊じゃ、いつぞやリンガレングが皆殺しにした魔王軍以下なんでしょう。あんまりおもしろくはなさそう」
「そう言うなよ。前回は誰も見ていないところで相手を皆殺しにしてしまったので、うまみが何もなかったが、今度こそ味方の目の前で敵を叩き潰せば、英雄だぞ」
「英雄になったところで、実入りがなければ何もなりませんよ」
「あのう、一般人のお二人が戦争に介入するということですか?」
「軍人でもなければ国の役人でもない俺たちは、分類上は一般人というくくりなるかもしれないが、その一般人が、この国を含めて、どんな国でも叩き潰せると思っているんだがな」
「にわかには信じられませんが、今後ハイデンを含め隣国との戦いが起こった場合にはご助力をお願いしたいのですが」
「俺たちに、頼むということは当然対価を支払ってもらうが、そこは良いんだな」
「軍隊を動かすとなれば、莫大な費用がかかります。それを考えれば個人や団体に支払う報奨金など知れています」
「俺たちは金が欲しいわけではないんだ。俺が望みはただ一つ。俺の信者を増やすことだ。おまえは俺が自分のことを女神などと口走る危ないヤカラと思っているかもしれないが、俺は実際、女神なのだ。いいか、俺の名まえは一度しか言わない、闇と慈悲の権能を持つ『常闇の女神』ダークンだ」
ここで、後光スイッチオーン!
「『常闇の女神』闇と慈悲の神。……」
「試しに俺に向かって二礼二拍手一礼の正式な礼拝をおこなってみろ。俺が女神だということがおのずと分かるはずだ」
「私と同じようにマネをして」
トルシェがちゃんとサポートしてくれた。
監察官ジ-ナ・ハリスがトルシェの動きに多少は遅れるもののなんとか俺に向かって二礼二拍手一礼をおこなった。
最後の一礼が終わった瞬間、ジーナの体が七色に輝いた。
そして俺の体の中心部を快感が突き抜けていった。
ホウッ!
ということは、こいつも信者になったわけか。信者が多くなれば多くなるほど神の権能は強化されるはず。何人信者を獲得したのか勘定していないが、もう数十人は信者を獲得していると思う。トルシェとアズランの二人の眷属だけの時でも全能感があったのだから、今なら、あの時の数倍は神の力が強まっているはずだ。何が起きるかわからないが、どこかで俺の全力を試してみたいものだ。おそらく、権能によって信者に加護や祝福を与えることができるような気がする。
ところで、トルシェが呼び出したこのブラックスケルトンなんだが、三カ月もこのままにしておくのはどうもブラックスケルトンを卒業したOG《オージー》の俺から見て忍びない。
「このまま、スーパーマッパだと
「スーパーマッパ? なんとなく意味は分かる気がしますが、真っ黒い骸骨が女物の服を着るんですか?」
「こうなってしまうと、自分でも男か女か分かんなくなるから、何を着せてもいいんだよ」
「さすがは、経験者」
「経験者?」
「気にするな。それはそうと、先ほどここに乱入してきた連中が本部長とやらに、まもなく憲兵がやって来ると伝えたと思うが、逃げ出したりしないかな?」
「その可能性は低いでしょう。ここの本部長はいちおうは貴族ですので、逃げ出した場合、国が全財産を没収しますから。それを避けるためにも裁判を受けると思います。裁判で万が一に無罪になればラッキーでしょうし、有罪になったとしても貴族家としての全財産を失う訳ではありません。われわれとすれば、逃げ出してもらった方がありがたいという面もあります」
「なるほどな」
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