第65話 警備隊本部2、ブラックスケルトン召喚


 軍から派遣された監察官ジ-ナ・ハリスから受け取った書類を持ってアズランが憲兵隊の本部に向けて走った。


 俺たちの会話を盗み聞きしていたらしいおっさんが走って行ったのでどこかにご注進に行ったのだろう。すぐにこの部屋に大勢が押し寄せて来るだろう。


「一応聞いておくけれど、あんたのこの部屋に勝手に入ろうとするやつは殺してもいいんだろ?」


「できれば殺したくはないが、殺しを禁じて護衛の仕事が窮屈になってはならないので、許可しよう」


「なるべく無関係なヤツが近くにこないことを祈っててくれ。俺に向かって拝めばいいことがあるかもしれないぞ」


「そう言えば、自分のことを『女神さま』と言っている若い女がいるそうだな」


 よく知っている。しかしそういった物言いは神に対する不敬だぞ。今俺は機嫌がいいようなので、バチを当てていないだけだからな。


 そのうち、このビジネスウーマンも俺も前にこうべを垂れるのだろう。


「それじゃあトルシェ。あまり派手にならないように。建物は壊さない範囲でな」


『こめかみあたりを突いて一撃でたおすグネグネした紐みたいな魔法が有ったろ? あれで仕留めてくれればいいぞ。あれなら少ししか体液が漏れないからな』


『了解』


 ビジネスウーマンは自分の机の後ろの席に戻って、書類仕事を始めたようだ。


 俺とトルシェは余裕でピスタチオもどきを食べながら、殻を目の前の応接用小テーブルの上に転がしてソファーに座っていたら、部屋の外がうるさくなってきた。


 そしたらいきなり扉がバンバンと手でたたかれて、外から大きな声で、


『この扉を開けろ!』


 とか言ってきた。俺がうるさいのが大嫌いなのを知っての狼藉に違いない。これは、簡単な神罰では済まされなくなったぞ。


 俺たちの入って来た時もカギはかかっていなかったし、さっきアズランが出ていったままだから少なくともカギはかかっていないはずだ。


 そとの連中もカギがかかっていないのに気付いたのか、監察官室?の中に警邏の制服を着た男たちが五、六人なだれ込んできた。


 男たちがソファーに座って木の実を食べている俺たちに気づいてはいるようだったが、執務机の後ろに座るビジネスウーマンに向かって、


「ハリス監察官、あなたに殺人の嫌疑がかかっている。おとなしく取調室に来てもらおう」


「殺人か。虫も殺さぬこの私に殺されるような輩は虫以下ということなのかもな」


「いいから、黙って取調室にこい!」


 あらあら、いちおうおたくらより相当上の立場の人だろうに。さーて、そろそろ神罰をくれてやらないと、ビジネスウーマンも困ってしまうからな。ここで知らん顔をしてもそれはそれなりに面白そうだが、いちおう女神さまの俺が一度約束したことを反故ほごにするわけにはいかないものな。


 俺は、このところビチャビチャよけとして重宝しているナイトストーカーを一瞬で装着してゆっくりと立ち上がった。


「おい、お前たちこそ怖くないのか? 監察官の前で騒げば罪が重くなるんじゃないのか?」


 いきなり全身漆黒の鎧を着た怪人から女の声が出た。ビジネスウーマンもこれには驚いたようだ。


「かかってくるなら俺にむかってこい。その代り死ぬ気でかかって来いよ。心の準備をして死んだ方が安心だからな」


「誰だ!」


「テルミナのAランク冒険者とだけ言っておくかな。いちおう向うで、俺たちにちょっかい出してきた、Sランク相当の五人パーティーを、俺たちで潰してきたんだがな。今使いに一人出てるからここには二人だが俺たちは全部で三人、『三人団』って聞いたことがないか?」


 三人団の名まえを出した以上、名まえを伏せる意味はあまりなかったが、まあ、様式美だと思ってくれ。


『隊長、三人団という名前は聞いたことがあります。黒鎧と美少女二人の三人組で、今まで15層だったテルミナの階層突破の記録を一気に20層まで伸ばしたバケモノのようなパーティーです。今一人いませんが黒鎧と美少女、こいつら、三人団のうちの二人に間違いありません』



 解説ありがとう。そういえばあそこのダンジョンで20層まで潜ったことで結構な褒賞金をいただいたが、有名にもなっていたようだ。チョロイ暇つぶしの仕事だったが、何気にやってて良かったぞ。


「分かっただろ? いちおう俺たちが護衛を請け負っているから、その監察官に手出しをしない方がいいぞ。さらに言っておくと、お前たちみたいなザコは百人、千人いても何もならない。死にたい奴から前に出ろ!」


 部屋に飛び込んできた連中は、俺の言葉に明らかに怯えたようだ。


「かかってきてくれれば、順番に殺してやろうかと思っていたが、かかってこないんだったらおとなしく退散して荷物を纏めて都落ちした方がいいんじゃないか? じきに憲兵隊が押し寄せてお前ら全員逮捕されるぞ。ここまで事を荒立ててしまった以上縛り首か、死ぬまで労役か。捕まってしまえば、いくら下っ端でも、世間に出てくることはもうないと思うぞ」


 今の言葉で、さらに男たちに動揺が走った。ビジネスウーマンは目を丸めて俺たちを見ている。女神さまが仕事を請け負っているんだから、安心してくれていいんだぜ。


「トルシェ、連中が逃げやすいように、何か魔法でデモンストレーションしてくれるか? さっきの鳥神ちょうじんも良かったけれど大きくてここじゃ狭すぎだから、なんか面白そうなのを召喚して見せてくれないか?」


「いきなり言われると難しいから、何かリクエストはありませんか?」


「そうだなー、昔の俺みたいなブラックスケルトンなんかはどうだ?」


「あれならイメージしやすいので簡単です。とりあえず一体召喚します。

 出でよ、ブラックスケルトンナイト!」


 部屋の真ん中、男達のすぐそばで、黒い渦巻が回り始めそれが人の形に集まってきた。おそらく、こんな演出など召喚には不要なのだろうが、トルシェのファンおれへのサービスの一環なのだろう。最終的に人形は真っ黒い骸骨の姿となった。


 おおおっ! 懐かしきかな黒きブラックスケルトン!


 ナイト付きなので、タダのブラックスケルトンより高品質に違いない。俺も昔はこんなのだったのかと思うと感慨深い。可哀かわいそうに、こいつは何も防具を着けていないので今はスーパーマッパ状態だ。武器としてシミターのような曲刀を右手に持って、左手には小型の丸盾を持っている。動きは機敏そうだ。


「トルシェ、ソイツで男たちの体の部位を切り飛ばしてしまうと、部屋が汚れるな。なるべく汚さないようにしてくれ」


 おっと、こいつらを脅して撤退させようとしていたことをすっかり忘れてしまっていつものように殲滅することに頭が働いていたようだ。


『こんなバケモノに勝てるわけがない。こいつらは召喚術師だったんだ!』


『俺はもう嫌だ、逃げる。憲兵隊に捕まる前に都から逃げる』


『俺もだ! 本部長に付き合ってはいられない』


『ほんの少ししかいい目に合っていないのに、本部長と心中したくはないぞー』


 男たちがそのまま一目散に退散していった。男たちが叫んでいた内容からよほどよからぬことを本部長を中心にやっていたのだろう。末端の屯所があの体たらくだったわけで上まで腐っていたということだろう。


 こいつらが捕まろうが逃げおおせようが俺にはどうでもいいことなので放っておいた。






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