第64話 王都中央署(警備隊本部)
一応任意同行のような形で、王都中央署なる警邏の監督部署的な建物にやってきた。なぜ、王都中央署が警邏の監督部署なのかというと、そこが警備隊の本部だとか言っていたからだ。
軍の王都警備隊の下に警察機構である警邏隊が属しているらしい。
どこに属していようが一応国の機関ということになる。
屯所の連中を皆殺しにしてしまったが、あの時外周りに出て屯所にいなかった者もそれなりにいるのだろう。
警邏の年かさのおっさんに連れられて建物の中に入ると、中では私服の連中の方が警邏の制服を着ている連中よりも数が多いようだ。ここは、そういった意味では事務仕事が多いのかもしれない。
建物の中を進んで、一番上の階まで階段を上り、奥の方の部屋に通された。屯所の尋問室は一階にあったが、ここは最上階の見晴らしのいいところに尋問室があるらしい。
部屋の前で、おっさんが中に向かって、
「三人団の三人を連れてまいりました」
そしたら中から、
『ご苦労。連れて入れ』
女の声だ。話し方から言っておっさんの上司みたいだな。声はそれなりに若く聞こえた。若い女の上司に使われるおっさんか。気苦労はあるのだろうがまだ髪の毛は健在だ。この上司は理不尽パワハラ上司ではないのかもしれない。
「はい。
三人とも中に入れ」
おっさんはそう言いながら扉を開けて俺たちを先に部屋に通した。
部屋に入ると、窓際に大きな机。手前に応接セットが
「そこに座ってくれ」
その人物はあか抜けた感じのツーピースを
「君たちがあの『三人団』なのか?」
「その通りだが」
「小娘と子どもが二人とは聞いていたが予想以上だな」
「屯所で何やらあったので、俺たちに聞きたいことがあったんだろ?」
「ああ、あの屯所は以前から問題があって、内偵中だったのだが、問題があると思われていた所員が全員いなくなってしまった。殺されたのかどうかさえ何もわかっていないが、彼らがいなくなった日に、君たちを屯所の前で見たというものが複数いたらしくてな。実際のところもはやどうでもよくなった。
その前にわれわれが追っていた『赤き左手』のアジトと思われる一帯が何者かによって破壊された。これも中に人がいたかどうかも分かっていない。なにぶん、現地では溶岩が固まったような状態で、何が起こったのかは分かっていない。
そして、こんどは『闇の使徒』たちの隠れアジトの壊滅。ここは墓地だった地面が大規模に陥没していて、確認など全くできていない。いずれの現場も近くにおいて君たちにそっくりな三人組が目撃されている」
「世の中には、自分にそっくりな人間が二人はいるらしいぞ」
「それは初耳だ。
それでだ、はっきり言って非常に助かっている。そのうち君たちがその三人組にあったら伝えておいてくれればいい」
「その三人組かどうかはわかないが、冒険者ギルドの依頼を受けて三人組を討伐したぞ」
「元は人だったらしいということだけ分かる死体が三つ証拠にあがっていたな。今ではその証拠も溶けて流れてしまったようだ。そうそう、違法金利で暴利を得ていた高利貸しのマグショット商会の上から三人、ザコが二人失踪したそうだ」
このビジネスウーマン、なかなか切れるようだ。『だからどうした』という話なだけに俺たちをどうすることもできないのだろう。もし俺たちが全ての犯人だったとすれば相当危ない連中ということになるものな。
「世の中、いろいろあって飽きずに楽しいだろ?」
「ああ、実に楽しい」
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。名前はジ-ナ・ハリス。軍から警備隊本部に派遣された監察官だ。ここの警備隊本部長を含めて誰でも逮捕する権限がある」
「ほう、そいつはすごいが、誰を逮捕するにせよ、実行部隊が必要なんじゃないか? まさかあんた一人では逮捕できやしないだろ? まかり間違えば、闇から闇に事故死ってこともありうるぞ」
「もちろんその通りなので、軍から憲兵を派遣してもらい逮捕させることになるな」
「もしもあんたが、ここの本部長を逮捕したいとして、その情報が本部長側に漏れた場合、あんたは先手を打たれて、良くて自分たちが逃げるための人質、悪ければ殺されるんじゃないか?」
「もちろんその危険性はある」
「覚悟はできていようが、腕に自信があろうが、所詮人の身。大勢に取り囲まれればそれまでだろう」
「その通りだ。そこで君たちにお願いがあるんだがな」
「聞くだけは聞いてやるから言ってみろ」
「今まで話したことから察していると思うが、ここの本部長以下幹部を逮捕するための十分な証拠が揃ったので、憲兵隊に出動を要請するつもりなのだが、私は監視されているため、表立った動きはできない。そこで君たちに頼みたいのは、書類を憲兵隊本部に届けることと、無事ここの幹部連中が逮捕されるまで私の身を守ってほしいということだ」
「話は聞いた。それで、その仕事を請け負った場合の報酬はどうなる?」
「君たちにかけられている嫌疑は全てなかったことにしようじゃないか」
「あのな、別に俺たちは誰に疑われようが構わないんだよ。そこを理解していないとな」
「国から追われればいかにAランク冒険者と言えども逃げられないぞ」
「まだわかっていないようだが、俺たちがというか、俺が本気になればこの王都を人の住めない更地にもできるんだぞ。さすがに今はしないけどな」
『ダークンさん、私たちをこの部屋まで連れてきたおっさんがまだ扉の前にいます。中の会話を聞いていると思います』
『なるほど、おっさんの立ち位置は分かったわけだな。この話面白そうだから乗って見るか? チョロそうだし』
『だったら、条件として、今度「地上げ」をする区画の国からの許可みたいなものをもらうというのはどうかな?』
『それで行くか。ここの人間がお参りに来る大聖堂だし、国から許可されていた方がいいものな』
「こちらとしての条件を呑んでくれれば今の話を引き受けても良いぞ」
「今以上の条件なのか?」
「それほど大した条件じゃない。今度俺たちは王都の中に大きな建物を建てたいのだがその土地がない。そこでいま、ごみごみした一画を丸ごと買いあげようと思っているんだが、そのことについて国から許可のようなもの、ないしは、問題が起こった場合のお墨付きが欲しい。ただそれだけだ」
「お墨付きがどういった物になるのかはわからないが、その程度なら何とかできるだろう」
「それじゃあ、契約成立だ。まずはその書類というのを渡してくれ」
「この袋の中に一式入っている。袋ごと憲兵隊本部長に渡してくれ。袋の中には私からの手紙も入っているからそれで向こうも分かるはずだ。そして、これが通行許可証になる。このカードを見せれば本部長室に入れる」
ジ-ナ・ハリスは立ち上がり、机の上に置いてあった袋を持ってきて、俺に手渡した。
俺は、書類の入った袋とカードを受け取り、
「アズランは憲兵隊本部の場所は分かるか?」
「分かります」
「それじゃあアズランが書類を届けてくれ。アズランは見た目子どもだから、カードを使わずに忍び込んだ方が早いかもしれないな」
「そのつもりです」
書類袋を持ったアズランが立ち上がり部屋を出ていった。おっさんと鉢合わせしたようだが、おっさんはそのままどこかにいったようだ。おそらくここの本部長にご注進に行くのだろう。
面白くなってきたぞ。
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