第63話 任意同行


「そういえば、俺たちがここで寝泊まりできるのかな?」


「召喚の塔の最上階には寝泊まりできるような設備はありませんでしたね」


「ということは、ここの連中はみんな通いなんだな」


「そうなんでしょう」


「それなら、俺たちもどっかに家でも借りるか?」


「食事や掃除も面倒ですし、キルンでのワンルームと比べればどんな屋敷を買っても不満に思っちゃいますから、宿屋でいいんじゃないですか。それに、ここにずっといればそのうち飽きてきますから」


「それもそうだな。掃除洗濯は面倒なものな。宿屋に泊まってそこいらを任せた方が楽だわな。

 それじゃあ、今日泊まる宿屋を決めるか?」


「少し離れていますが、この前マイルズ商会の元会長がいた宿屋はかなり高級でしたからあそこに行ってみましょうか?」


「そうだな、あそこで豪勢にスイートでも取るか? トルシェ、お金の方は大丈夫なんだろ?」


「問題ないです。いくら高くても何年でも宿屋生活できる金貨を持っていますから」


「さすがだな。お金は持っているだけじゃダメで、使ってこそだからな」


「そうかもしれませんが、お金を貯めるのもそれはそれで楽しいですよ。特に金色のお金はピカピカ光って心が落ち着きます」


「そういうヤツもいるだろ。というかかなりの人はそうなんだろう。

 じゃあ、そろそろあの宿に行くか」


「はーい」「はい」



 広場に面した裏側から本館の中に入ってホールに抜けた。


 ホールでは今日の騒ぎはなかったかのように若い連中がたくさんいた。俺たちの姿を見て、見とれている若い男も大勢いたが、俺たちにちょっかいをかけてくるような骨のあるいのちしらずなヤツはいなかった。きれいなホールを血で汚してもコロがきれいに掃除してくれるので問題ないんだがな。


 受付嬢に『俺たちはこれで帰るから、事務長に伝えておいてくれ』と言っておいた。受付嬢は俺たちが近寄っていくと、腰が引けていたが、俺の言ったことはちゃんと理解はしたようだ。


 午前中のドタバタで受付の机は傷ついたのだが、今は新しいものに代わっていた。かなり素早い対応だ。事務長が優秀なのかもしれない。評議会議員をしている研究バカのジジババではそうはいくまい。事務長やここの受付嬢はおそらく魔術の使えない一般人なのだろうが、一般人の方がそういったところはしっかりしているのだろう。


 通りに出て、ただ一人宿屋までの道の分かっているアズランを先頭に俺たちは歩いていく。


「今日は適当な土地を見繕みつくろおうと思っていたが、ちょっと当てが外れたな。その代り、王都の区画整理をするという素晴らしい考えが閃いたのは良かったな」


「区画整理って何ですか?」


「土地が小さく分かれているのを全部それぞれの地主から買い取って、一つの塊にするんだ。そしたらその上に大きなものが建つだろ?」


「白ローブを使って、上にこびりついた・・・・・・連中を追い出すんですよね」


「そういうことだな」


 地上げについての説明をトルシェとアズランにしながら通りを歩いていると、向こうの方から、六人ほど固まって警邏の連中がこっちに向かって駆けてくる。


「何かあったのかな?」


「さあ、何でしょう?」


「面白そーなことでもあったかな?」


 何か大捕り物でもあるのかと思って見ていたら、そいつらが俺たちの方に向かっているように思えてきた。というか、俺たちの目の前で止まった。


「なんだ?」


「さあ」


「なんでしょ?」


 三人で不思議なものでも見るような感じで警邏の連中を見ていたら、先頭を進んでいた年かさのおっさんが俺に話しかけてきた。


「お前たち三人、三人団の三人だな?」


 こうやって三人団の三人とか呼ばれてしまうと、たまたま三人揃っていたから良かったものの二人の時だったら、『三人団の二人』とか呼ばれたのかと思うと、三人団の命名は早まったのかもしれないと思ってしまった。


「そうだが、それで?」


「お前たち三人に、屯所襲撃の容疑がかかっている。おとなしく警備隊本部まで同行願おう」


 俺は、Aランクの金カードをおっさんたちにこれ見よがしに見せながら、


「嫌だと言ったら? 一応、我々はAランクの冒険者。たかだか六人ではどうにもならないぞ」


「その場合は、通常なら少々痛い目を見せてやるのだが、お前たちには頭を下げるしかないな。われわれに同行願う」


 そう言っておっさんが俺たちに頭を下げた。こういうふうに下手に出られるとこちらの対応も軟化せざるを得ないな。


「トルシェどうする?」


「この六人を殺しちゃうのは簡単だけど、見物人も大勢集まって来たから面倒だなー」


「アズランは?」


「まだ、屯所での取り調べを経験していないんで、見学のつもりでついていっても良いです」


「取り調べの時は、三人別々だと思うぞ」


「そうなんですか?」


「おっさん、そうだよな?」


 アズランの疑問に、おっさんが、


「ちゃんと同行してくれるなら三人纏めて話を聞いても良い」


「うそかもしれないが、俺たちを止めることはできないのだからいずれにせよ一緒か。そうだ、

 おっさん、もうすぐ夕方だが、夕飯は出るんだよな? 俺はカツドンを所望する!」


「カツドン?」


「カツドンはないか。それじゃあちゃんとうまいものを出すんだぞ」


「分かった分かった。なるべく期待に添うようにするから我々について来てくれ」


 俺たちは物見遊山感覚で、おっさんたちについていくことにした。前回俺が屯所に連れていかれた時はお縄をちょうだいしたのだが、今回は普通におっさんたちに着いていくだけだった。


「アズラン、警備隊本部ってデカいのかな?」


「魔術師ギルドほど大きくはありませんが、そこそこだと思います」


「ふーん。どうでもいいけどな」


「ダークンさん、わたしたちを取り調べるとかふざけたことを言ってましたが、ひどいことをするようなら、こっちもひどいことをし返していいんですよね?」


「トルシェだと、やられたことが百倍くらいにはなっちゃうから、その建物が潰れちゃうんじゃないか?」


「ダークンさんみたいに潰したいんですけどあれってまねができないんですよ」


「そうなんだ。使いたかったら教えてやりたいが、あいにく俺もただアレが無意識にできるようになっただけなので、教えられないんだよ」


「わたしも、たいていの魔法は出来ると思って適当にやってるだけなんで人に教えるのは苦手です」


「世の中そんなもんだよ。名選手が名監督になれないってことさ」


「???」


「気にするな」


「はーい」



「この方向は、王宮へ向かっているのかな?」


「王宮の手前は官庁街になっていて、その一画に王都中央署と呼ばれている警備隊本部があります」


「それはそうか。中央と名前を付けているくせに街の隅だとカッコ悪いものな」


「そういうことです」



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