第112話 情報共有
翌朝。
一応あの土地の
商会長のエルンスト・リストを呼び出して、そこらへんは丸投げしてやった。
そもそも、あの土地のことを教えるのも忘れていたので、いきさつも一緒に教えておいてやった。玄関ホールの穴のことも教えて、工事中は丈夫な囲いをして、もし入れば生死の保証はできないと付け加え、決して中に入らないよう指示しておいた。
更地にするのにどのくらいの費用が掛かるのか分からないので、トルシェにいって、金の延べ棒を十本ほど置いてきた。そんなに費用はかからないといっていたが余れば建設費用にするだけだと言って受け取らせた。
更地にした後は測量して、大聖堂の図面を引かなくてはいけない。大聖堂と言えば文化遺産だ。従ってよきに計らえと言って丸投げはできないし、相手も困る。図面の方はある程度こちらからも要望を出してすり合わせる必要があるので、測量が終わったら、業者が連絡を寄こすということになった。
リストもあの屋敷のことは知っていたようで、あの広さの敷地であの大きさの屋敷を解体して更地にするとなると少なくとも二カ月はかかるだろうと言われてしまった。確かに人力で解体して整地するとなるとその程度はかかるのだろう。
連絡場所は一応魔術師ギルドのトルシェ2号ということにしておいた。トルシェ2号は創造主であるトルシェとある程度離れていても念話的なもので話ができるのだそうだ。トルシェ2号と言うとややこしいので、トルシェは普段そこにいるということにしておいた。
それとリストには忘れずに、戦争の足音が近づいていることを教えておいた。かなり驚いていたが、
「いまこそ商機だろ!」
と発破をかけたら、
「任せてください」
「元手は十分あるのか? 少ないようなら出すぞ」
「やりようはいくらでもありますので大丈夫です。きっちり儲けさせていただきます」
力強い言葉だ。ここはリストに任せておいて大丈夫のようだ。
次に顔を出したのは、魔術師ギルドだ。
玄関ホールに入ると、相変わらず人がたくさんいる。魔術師ギルドが繁盛していることは結構なことだ。ホールを抜けてそのまま中庭の方に行ってみたら、トルシェ2号が特別陸戦隊の連中を走らせているところだった。このまえの八人がそのまま隊員として残っていた。根性あるじゃないか。見た感じもなかなかいい走りをしている。タダ全員目は死んでいた。
トルシェ2号を呼んで、だいたいの訓練状況を聞いておいた。特に問題はない。建築業者から連絡が入ったら、トルシェに知らせてくれと言っておいた。念話の有効距離をトルシェに聞いたら、トルシェ2号が魔術師ギルドにいるとして、自分が王都内にいる分には通話可能だと言っていた。
魔術師ギルドの次は、警備隊本部だ。上の階にいる
勝手知ったる警備隊本部の建物の玄関ホールから階段を上って、ジ-ナ・ハリスの部屋にむかう。
「おーい、俺たちだー」
と一言ことわっただけで、勝手に部屋の扉を開けて中に入っていく。
スケルトンちゃんが扉の先に立っていた。今移動してきたようだ。なかなかいい動きをしている。今日は俺が着せてやった女物の服とは違う服を着ている。どうやらかわいがってもらっているようだ。ただ、衣服からのぞいているのが真っ黒い骨なので、一般人だとちょっとくらい違和感を感じるかも知れないが、それも慣れてくればどうってことないハズだ。
「おはようございます」
それまで机の後ろの席に座っていたジーナがスケルトンちゃんに続いて俺たちを迎えてくれた。何も言われていないが勝手に部屋の中の応接セットのソファーに三人で座り、主人面をして、
「まあ、そこに座ってくれ」
そう、
「失礼します」
と俺たちにことわって、俺の向かいのソファーに座った。
「早速だが、
「昨日ハイデンに? 行ってきた?」
「細かいことは気にするな。事実だ」
「はい」
「それでな、そこにいた兵隊が言うには、二万の軍勢がこの国に向かっていると言っていたんだが、お前はというか、この国の軍はそのことを知っているか?」
「いえ、初耳です。私の知っている範囲だけですが、軍では何も動きはありません。事実なら大変なことです。いえ、女神さまのお言葉ですから事実なのでしょう。
国境付近の守備兵力は増強中だとは聞いていましたが、増強はそこまで進んでいないはずです。現在配備されている兵力では防ぎきれません。敵の侵攻速度にもよりますが、遅滞戦術を取ったとしても、二万の兵力が相手では鎧袖一触。ほとんど効果はありません。国境を突破され一カ月もあれば、この王都近くまで攻め込まれます。軍の集結を終え王都近郊で会戦したうえなんとか勝利したとしても、敵軍の通過した地域は蹂躙されわが国は疲弊してしまいます」
「そうだと思ったよ。いちおうは知らせてやったが、お前の方はどうするんだ?」
「女神さまのお話ですが、軍の上が私の言葉だけで動くとは思えません。おそらく何もできず、国境線は破られ、付近の都市は蹂躙されると思います」
「そこらへんは仕方ないだろうな。すでに国境線も破られている可能性もあるしな。今日明日にでも早馬が王都に駆け込んでくるかもな。尻に火が点けばなにがしかの対応をするんだろうが、文字通り手遅れにならなければいいよな。今のうちに上に警告しておけば、ハイデンが攻めて来た時評価されるぞ」
「情報ありがとうございます。私は自分にできることをやっていきます。女神さまはハイデンが攻めて来た時は、いかがなされるのでしょうか?」
「これから神殿を建てようという時に、この都がメチャクチャにされたら困るからな。それなりの対応はするつもりだ」
「その時は、よろしくお願いします」
「それじゃあな」
俺がソファーから立ち上がったところで、ジーナも立ち上がり、俺に向かって礼拝をおこなった。分かっているじゃないか。
今の話を聞いて、王都の手前まで攻め込んできた敵を蹴散らしてやろうと思っていたが、よく考えたら、あまりにこの国の被害が大きいようだと、神殿の建設物資も不足するかもしれない。
面倒だが、少し
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