第59話 懲罰部隊、特訓


 三人揃って広場に出たところ、しばらくして十人ほどの白いローブに白いフードをかぶった連中がやってきた。


『アズラン。何か連中に言ってやってくれ。俺が直接相手をすると序列が乱れてしまうからな』


『了解しました』


「お前たち、懲罰部隊はもう少しおのれを磨かないと、魔術師ギルドとして恥ずかしい。と、新たな評議会議長がおっしゃっておられる。

 ということなので、これからしばらく特訓をする。いいな!」


「……」


 一応並んではいるものの、誰も返事をしない。


 この連中は組織というものを理解していないようだ。


 俺が直接手出しをしたくはなかったが、これでは組織として成り立たない。やむを得ないが、俺がこいつらを少し教育してやろう。


「装着!」


 アズランの後ろに立っていた俺が一歩前に出て、懲罰部隊の面々の目前でナイトストーカーを装着してやった。


 白フードに隠れて顔は良く見えないのだが、一瞬たじろいだようだ。


「お前たち、上司が何か言ったら返事ぐらいしろ!」


 俺が怒鳴りつけても誰も何もいわずに突っ立っている。


「お前たち勘違いしているのか知れないが、お前たち全員がどうあがこうと、俺たち一人で三秒もあれば皆殺しなんだぞ。相当弱いってことを自覚しろ」


 そう言って一番近くに立っていたヤツの首元に手をやって吊るし上げてやった。


「ほんとなら、俺たちの言うことに従えないような連中は不要だから、何も言わずに首の骨を握りつぶしてやっても良かったが、慈悲の心で待っててやるから。ほら、ご自慢の魔術で抵抗してみろ」


「……」


 さすがにそこまで煽れば、発奮したようで、各々が身体強化魔法を発動した。


 とはいうものの、発動には時間がかかる。俺たちが本気を出していたら、呪文を唱えて魔術が発動する前に死んでいるぞ。


 吊りあげていた白ローブを放り投げて、


「ほら、全員でかかってこい。乱取り稽古と行こうじゃないか。ほれほれ、かかってこい」


 白ローブの一人が強化したであろうパンチを繰り出してきた。俺から見ると、ゆっくり迫ってくるこぶしを軽く右手で払って、左手でそっとみぞおち辺りを押してやった。


 それだけで、仲間を数人道連れにして、白ローブは五メートルほど吹き飛んでいってどこかを強く打ったのか、動かなくなってしまった。


 たじろぐ白ローブたち。


「じっとしている暇があったら、囲むくらいしろ! おまえら、連携も何もないじゃないか!」


 土壇場で叱っても一度もまともな訓練をしていなければ何も出てくるわけないな。


「これから三秒でお前たちを全員地面に這いつくばらせてやる。いーち、」


 一気に加速した俺は、近くにいる白ローブから順に、軽く胸の辺りを片手で押してやる。押された方はそのまま吹き飛んで地面転がって、伸びてしまう。


「にーい」


 一秒に三人ずつ。


「さーん」


 合計九名、順に地面に這わせてやった。


「分かったか! お前たちがいかに弱いのか」


 俺の動きを認識することもできなかったようだ。


「悔しいと思ったら、俺に殴りかかってこい。言っておくが俺のこの鎧は硬いぞ。気を引き締めて殴りかかってこい。俺は今回は反撃しないから、そこは安心してていいぞ」


 俺が白ローブたちの真ん中に立ってじっとしてやったら、起き上がってきた連中が身体強化済みのパンチやキックを繰り出してきた。


 ボコ、バコ、ビコ!


 一応身体強化をしていたからか、骨折に至ったものはいないようだが、一ミリも動かない鉄の塊を殴りつけ、蹴りつけているようなもので、骨に異常はなくとも痛みはあるのだろう。各人一、二度俺に攻撃を仕掛けただけで攻撃を止めてしまった。


「防御もお粗末、攻撃もお粗末。それでよくやってこれたな。これでよくわかったろ。俺がおまえたちを一人前に強くなるように鍛えてやる。鍛えてもらいたい奴はここに残れ。そうでないものは、ここから出ていき、二度と戻ってくるな。

 いいか? 返事は!」


「は、はい」


 元気のない声が返ってきた。


「ちゃんと腹の底から返事をしろ! 分かったか!」


「はい!」


 やっと、やっとちゃんとした返事が返ってきた。ここまで何分かかった? 時間を無駄にするやつらだ。


「それでいいんだよ。それじゃあ、まずはこの広場の周りを建物に沿って全力で走れ。ばてたら魔術を使って回復しようが何をしようが構わない。とりあえず全力で五十周だな。よーい始め!」


 ローブを着てフードをかぶってどこまで頑張れるか見ものだ。


 十人が一斉に走り始めた。なかなか壮観だ。いくら魔術で身体強化をしても全力で五十周はキツイだろう。一周二百メートルはありそうだから、五十周で十キロ。これを全力で走るとなるとかなりこたえるだろう。


「おーい、ちゃんと全力で走れよ。遅れているヤツは、議長から電撃を食らわせるからな」


 今君たちは走りながら己の不幸を嘆いているのだろうが、実は非常に幸運だったのだよ。まかり間違っていれば今頃頭の上半分がなくなっててもおかしくない状況を辛くも脱しているわけだからな。


 半周もしないうちから、頭からかぶったフードが邪魔になりほとんどの者がフードを投げ捨てて走っている。カッコ付けも大切かもしれないが、実力が伴わないカッコ付けは見苦しいだけだ。


「おまえたち、その白いローブと白いフードがいかにも鈍そうなんだよ。体で勝負しているなら、もう少しましな格好をしろ」


 俺の言葉はもはや白ローブたちには聞こえていないのだろう。集団から遅れ始めた白ローブに対して、容赦なくトルシェの電撃が飛ぶ。あまり強い電撃は相手を黒焦げにしてしまうので調整は難しいと思う。対象の近くに金属の突起部などあればそちらに曲がっていきそうだし、距離が遠くなればなるほど難易度が跳ね上がっていくだろうから、かなり高度な技術が隠されているはずだ。やってる本人からすれば実は適当だったりするがな。いや、じっさいトルシェからすれば超アバウトな魔法なのだろう。



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