第156話 ご隠居さま1
トルシェにゴーレム鎧ダークサンダーを作ってもらい意気揚々とテルミナの通りを歩いていたら、ほどなくダンジョン入り口にたどり着いた。入り口の周りにいた冒険者たちがスケルトンと大ガメを連れている俺たちを奇異の目で見ていたが、首に下がった金カードを見たせいか誰も絡んでくるようなヤツはいなかった。
入り口前に立っていたギルドの係り員は俺たちの首からぶら下げた金カードを見て頭を下げた後、他の冒険者同様、後ろに続く黒ちゃんとタートル号をみてぎょっとしたみたいだ。どう見ても黒ちゃんとタートル号は俺たちの連れに見えただろうし、冒険者云々は関係ないと思ったようで、何も言われなかった。
黒い渦の中に入った先は久しぶりの拠点だ。その先のワンルームに急ぐ。今日買ったもの以外汚れがきれいに落ちていないものも多かったので、脱衣室に持っていってそこに置いておいた。半日もあれば全てきれいになっているだろう。
次に食糧庫に入り、目ぼしいものをどんどんキューブの中に入れていった。後で、タートル号の食糧庫の中に移し替えなくてはならない。
「さて、リンガレングはどこかな?」
リンガレングにどこかに行く当てもないだろうから、最初にリンガレングのいた機械室?の辺りにいるのだろうと思って扉を開けると、やはり一段高くなったステージの上に丸くなって乗っていた。
リンガレングをキューブに収納して、これで拠点での用事は洗濯物がきれいになるのを待つだけになった。
「ダークンさん、洗濯物がきれいになるまで街に出て冒険者ギルドを覗いて冷やかしてみません?」
「それは面白そうだ。それならダークサンダーのギルドへのお披露目だな。見た目はナイトストーカーと変わらないから、俺たちが三人揃っていなくても三人団と分かるだろう。それじゃあ、ヘルメットもかぶってギルドホールの中を練り歩くとするか」
そういうことで、トルシェと一緒に黒い渦を通ってダンジョン入り口に戻りそこから、冒険者ギルドに向かった。黒ちゃんとタートル号はお留守番だ。
いまの俺はヘルメットもかぶってフルアーマー姿だ。以前アズランを助けた裏道を通っていく方が冒険者ギルドには近道なのだがあえて大通りを歩いていく。通りの連中がかなり遠くから俺の姿を認めて道を
俺がこの美しい顔を出していれば妙な連中が絡んできてそれはそれで面白いのだが、無人の野を行くがごときこの感覚もまたいいものだ。
俺が久しぶりに冒険者ギルドのホールにはいっていくと、それまでざわついていたホールの中が、急に静かになった。実に爽快だ。
どこかのバカが俺たちに絡んでこないかと思ったが、俺たちの胸に輝く金カードにビビったのか誰も絡んできてくれない。それどころかかなり遠巻きにされている。これはこれで楽しいので、いつものように用もないのにそこらを練り歩いてやった。
ホールの中では、
「あいつら今日は二人のようだが三人団のヤツらじゃないか?」
「三人団というと、黒い悪魔と、二人の白い魔女の三人組だろ?」
「黒い全身鎧を着て、用もないのにホールの中を歩き回っているのは、三人団のあいつ以外に見たことはない」
「なんとかならないのか? 本当に迷惑なヤツらだ」
「ならお前が連中に文句を言えよ」
「できるわけないだろ。気にくわないというだけでAランクパーティーをあっさり壊滅させる狂ったやつらだぞ!」
おいおい、俺たちが狂ってるだと? 今そう言ったヤツの方に顔を向けたら、そいつはすごすごと後ろの方に隠れてしまった。そこまで俺たちが怖いなら悪口を言わなきゃいいのに。口は災いの元。俺みたいに心の広いできた女なら大抵は見逃すが、心の狭いヤツだったら、タダでは済まなかったぞ。
「トルシェ、何か面白い依頼がないか見てきてくれないか?」
「
しばらくおとなしく立っていたら、トルシェが戻って来て、
「ダークンさん、ありましたよ!」
すごくうれしそうだ。
「それで?」
「黒いスケルトンの討伐。市長の個人名で出てました!」
「黒いスケルトンは黒ちゃんのことだろうけど、市長の個人名というのは? ここはヤルサのような知事じゃなくて市長なんだ」
「この街の
「なるほどな。どっちでもいいがな。それでどうする?」
「市庁舎に乗り込んで、バカな市長をギャフンと言わせてやりましょうよ。ダークンさんはこの国の前国王。市長は国王に任命されるものだからかなり面白いことが起こると思うな」
「なるほど、ギャフンか。それはいいな。さっそく行こうぜ」
水戸のご老公の気分が味わえそうだ。
トルシェに案内されて市庁舎とやらに向かっていくと、冒険者ギルドほどの大きさの建物が冒険者ギルドの面していた大通りとは別の大通りに面して建っていた。
市庁舎の出入り口には守衛が左右に立っていた。
俺たちが市庁舎の中に入ろうとしたらそいつらが身構えたが、俺たちの金カードを見たのか、すぐ元の位置に戻った。
市庁舎の中に入り、ちょうど近くにいた女性職員に市長室を尋ねたら、よほど俺の姿が怖かったのか、どもりながらも教えてくれた。
入り口のホールの正面にあった階段を上り市長室があるという三階に。
階段の先は廊下になっていて左右に扉が並んでいたが、廊下の突き当りが市長室ということだった。
「おい、市長はいるか?」
返事など気にせず、市長室の扉を開けて中に入っていく。入り口の脇に机が置いてあって、秘書らしき女が俺を見て、
「どちらさまでしょうか?」
と、聞いてきた。
さて何と答えるか? やはりここは正攻法しかないよな。
「俺は前国王、『常闇の女神』」
あまり名まえは出したくなかったがここは仕方ない。
「えーと、おつむ大丈夫ですか?」
全く信用されていない。そういえば俺が国王だったことを証明するものが何もない。戴冠式くらいしてればよかったか。
俺の後ろでトルシェが真っ赤な顔をして笑いをこらえている。
悪かったな。
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