第155話 黒き稲妻ダークサンダー


 久しぶりにテルミナに帰ってきたら、街中でアンちゃんたちに絡まれてしまった。俺もトルシェもAランクの冒険者カードを首から下げていなかったのが悪かったのかもしれないと思い至り、おもむろに金カードをキューブから取り出して首にぶら下げてやった。


「俺も、ランク至上主義にはいささかうんざりしているんだが、俺たちは一応ここテルミナでAランクになった三人団のうちの二人だ。聞いたことないか? 三人団のこと。お前らのような駆け出しだと聞いたことがないのかもしれんな」



 俺の言葉を聞いて連中がうちわで会議を始めてしまった。トルシェも今のところおとなしくしている。


「なに? 三人団」


「兄貴、三人団というのは、Sランク相当と言われていた『万夫不当』を気にくわないからっていうだけで叩き潰した極悪パーティーだよ」


 なんだかひどい言われ方だ。


「だが、三人団は黒い全身鎧と小娘が二人だったハズ。この二人のハズがない。しかも今は二人とも手ぶらだ」


「でも兄貴、あの金カードはどう見ても本物だぞ。しかも街中でスケルトンなんかを連れ歩いてるようなヤツらだ。『三人団』じゃなくてもただものじゃない。ただ、なんでスケルトンが鳥かごを持っているのかは分からない。何かの呪いのアイテムかもしれないぞ」


「金カードなんか金さえあればいくらでも模造はできる。とはいえ、鳥かごが呪いのアイテムの可能性は確かにある。しかもあの真っ黒なスケルトンは相当ヤヴァい。ここは、ずらかった方が良さそうだ。あとで親父に頼んで何とかしてもらおう。走れ!」


 エライ勢いでチンピラ連中が逃げていった。トルシェが何かスッポーンするかと思ったが、今回は見逃してやったようだ。


 あまりに一方的かつ見事なスッポーンを決めてしまうと、こっちが加害者にされてしまうから衆人環視の中の殺生は皆殺しする気がないのなら憚られるものな。トルシェも少し大人になってくれたようだ。


「ダークンさん。さっきのやつら『親父に頼んで何とかしてもらおう』とか言ってたよね?」


「そう言ってたな」


「その『親父』も出てくれば面白そうでしょ?」


 そっちを狙っていたのか。あのアンちゃんの口ぶりから言ってその『親父』、何らかの地位なり権力を持っていそうだったからな。


「拠点に戻って用事を済ませたら、しばらく街をブラブラしてみるか?」


「フフフ。面白くなりそー。ついでに黒ちゃんの討伐依頼をギルドに出してくれないかなー。そしたらやってきた連中を皆殺しにできるのに」


「やってきた連中は仕事でやってくるだけなんだからが可哀かわいそうじゃないか?」


「冒険者の仕事って失敗することもあるし、死ぬこともある。そういうものでしょ?」


「それはそうだけどな」



 そこからしばらく歩いたところで、通りに面して以前も使っていた衣料品屋があった。俺はかなりの数普段着をダメにしてしまったのでそこで何着か購入することにした。仕立てるのは面倒だったので、古着の中でもテイのいいものを見繕みつくろって何枚か買ってやった。俺は無一文なので支払いはもちろんトルシェだ。待てよ、今回はアズランが俺と離れて単独行動をとっているが、トルシェが俺と離れて単独行動をとってしまうと、無一文の俺は何もできなくなるんじゃないか? マズいな。



 ナイトストーカーを着ていた時は大きな汚れはコロが食べてくれてたし、ただの汚れは勝手にきれいになって、油をさすことも無く全く手入れの必要がなかったので便利だった。健康は失って初めてそのありがたみを知るというが、まさにそれだな。


 何か汚れの付きにくい上着が欲しい。


「ダークンさん。以前わたしとアズランがダークンさんに選んであげたマントがあったじゃないですか?」


「あったな」


 確かにあったが、さすがにプロレスラーのハデハデマントとか闇に溶け込むような地味なじみーなマントを身に着けたくはない。


「アレを上から着ておけばいいんじゃないですか?」


「もう少し動き易そうなものが良いんだ」


 無難に受け答えしておこう。


「それならナイトストーカーも勝手に自分でどこかに行ったって話だし、わたしが鎧をゴーレムで作っちゃいましょうか?」


「おっ! そいつは良さそうだな。少々重くても問題ないからカッコいいのを頼むぞ」


「ゴーレムだから自分で立っているのでそんなに重くないし、ゴーレムと言っても鎧だからダークンさんが『装着』『収納』で出し入れできるはず。色の要望があればどうぞ」


「それはもちろん黒だ」


「それじゃあ、さっそく」


 街中で鎧ゴーレムを作るらしい。黒ちゃんとタートル号を従えているのでかなり目立って注目を集めている状態だが、お構いなしだ。


 立ち止まったトルシェが右手を一振りしたら、そこにナイトストーカーによく似たゴーレムができ上った。


「ナイトストーカーそっくりだな」


「具体的なイメージがナイトストーカーしかなかったから、こうなっちゃいました。全体の色は黒に近い灰色にして、赤い模様の代わりに真っ黒な模様を入れておきました」


 確かに真っ黒とはいえない地の色に、浮き出た血管のような漆黒模様が禍々まがまがしい。これだと薄暗いダンジョン内だと遠くからでは模様は判別できそうにないが、近くで俺を見たヤツは模様に気づいただけで怯みそうな迫力がある。


「トルシェありがとう。早速着てみよう。『装着』」


 一瞬で目の前の全身鎧を身に着けることができた。腰のベルト代わりのコロが鎧の隙間からにじみ出てきて、鎧のベルトになった。一応ヘルメットは脱いでキューブに収納し、代わりにエクスキューショナーとリフレクター、それにスティンガーを取り付けてやった。


「これはいい。ナイトストーカーなみに便利だぞ」


「フフフ。ダークンさんに喜んでもらえてよかった」


 俺たちを遠目で見ていた連中は、若い女がいきなり黒い全身鎧を纏ったことにかなり驚いたようだ。


「こいつも名前を付けてやるとさらにカッコよくなるかもな」


「黒ちゃんもそうだったから、きっとそうなると思うな」


「何て名前にしようかな? うーん。この漆黒の模様が血管模様にも見えるが、稲光の模様にも見える。黒き稲妻『ダークサンダー』これでどうだ!」


「ダークンさんダークサンダーってどういう意味なんです?」


「黒き稲妻を別の言葉で言っただけだ。稲妻は本当ならばライトニングでダークライトニングになるが語呂が悪いんで雷の意味のサンダーにしてみた。名まえとしてはダークサンダーの方が語呂が良いだろ?」


「ダークサンダー。いいですねー」


「それじゃあ、こいつに名まえを付けてやろう」


 もう一度ヘルメットをかぶって、


「俺の新しい相棒、お前の名前は黒き稲妻『ダークサンダー』だ」


 俺の纏ったダークサンダーから一瞬黒いオーラが立ち上った。ような気がする。


 いちおう、鑑定はしておくか。


「鑑定結果:

名称:黒き稲妻ダークサンダー

種別:全身鎧型ゴーレム(名前付き)

特性:謎の素材製。近接物理攻撃100パーセント反射。ライトニングムーブ。自己修復。不壊」


 やはり、すごいことになっていた。


 近接物理攻撃100パーセント反射の意味は推測だが、ダークサンダーが剣の攻撃を受けたら、その剣がダメージを受けるってことだろう。ほぼ一撃でその剣は壊れるな。


 今のところライトニングムーブについては意味不明だが、そのうち分かるだろう。



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