第144話 ナイトストーカー3、脱走


 いい気持ちになって酒盛りを続けていたら、夜も更けてきた。どうも外は雨のようだ。部屋の中は魔道具の明かりで十分明るい。


 いつものノリで酒盛りはこれからだと思ったが、マリアが眠そうにしている。まずいまずい。


「アズラン、マリアは眠そうだから、トイレに連れて行って寝かせてやってくれ」


「はい」


「あまり五月蠅うるさくしてもかわいそうだから、俺たちもここらでお開きにして、久しぶりにベッドで寝るか?」


「はーい」


 テーブルの上は散らかってしまったが、明日になれば侍女たちで片付けてくれるだろうと思い、そのままにしておいた。俺たちは居間の明かりを消して、それぞれのベッドルームに行って寝ることにした。もちろんアズランとマリアは同じベッドだ。



 寝間着に着替えてベッドに横になって目を瞑っていたら、意識がゆっくりと薄れていく。とはいっても意識が完全に途絶えるわけではなく、不思議と辺りの状況は把握できている。


 

 ベッドに入って二時間ぐらいして、時刻は午前零時ちょうど。


 居間の方から何だかガシャガシャと聞き慣れた音がする。何の音だったっけ?


 トルシェもアズランも自分たちのベッドルームから起き出してはいない。いや、今アズランが居間からの物音に気づいてベッドから起き上がったようだ。マリアとトルシェの寝息はかすかに聞こえるので二人ともぐっすり眠っているらしい。


 ガシャガシャと音を立てる賊がいるとは思えないが、一体何なんだろう?


 普通なら怖いとかの感情が湧くのかもしれないが、俺も含めてトルシェもアズランもそういった感情は無くなってしまっている。恐怖心の欠落は生物として生存競争を生き抜くためにはかなりマズいことかもしれないが、俺たちは正確には生き物と言っていい存在なのか微妙なところもあるので、そういった感情が欠落しているのかもしれない。


 それはさておき、音を立てないようにベッドから降りて、静かにベッドルームの扉を開けて居間の中を覗くと、マネキンに着せていたはずのナイトストーカーが、マネキンを置いて部屋から出ようとしているところだった。


 部屋に誰か入ってきた気配もなかったし、鎧を着ける音も聞こえていなかったはずだ。ナイトストーカーの中に人は入ってはいないと思う。


 ということは、ナイトストーカーが勝手に歩き回っている? 俺が呆れていると、文字通りストーキングしているわけではないのだろうが、本当にナイトストーカーは部屋を出ていってしまった。ガシャガシャ音が廊下から聞こえてくる。



「ダークンさん?」


 知らぬ間に、寝間着姿のアズランが隣に立っていた。


「あれって、ナイトストーカーですよね」


「マネキンも今は裸だし、そう見えたな」


「どこに行くんでしょう?」


「さあなあ。ナイトストーカーに気づかれないようにというのは変だが、静かに後をつけていってみよう」


「はい」



 俺たちにあてがわれた部屋を出て、ところどころ明かりのついただけの暗い廊下を歩いていくナイトストーカー。俺はアズランと二人でナイトストーカーの後をつけていく。


 ナイトストーカーに何か目的があるのか? 何かを追っているのか?


 ナイトストーカーは廊下の突き当りを右に曲がっていった。


 少し距離を開けナイトストーカーをつけていく俺たちもその突き当りを右に曲がった。



「あれ?」


「いなくなりまたね。どこにも気配はありません」


「あいつ、どっかに瞬間移動できるような能力があったのか?」


「まあ、女神さまの鎧ですからそういった能力が身についたのかも?」


 ナイトストーカーが消えてしまった。アズランの知覚力をもってしてもどこにも気配がないということは、この近辺にはいないということだ。



 あいつ、俺がいつも汚いものがくっ付くのを避けるために着ていたものだから、それで逃げ出したのかな? 度量の小さいヤツだ。ってわけはないよな。



「アズラン、仕方がないから部屋に戻って朝まで寝よう」


「そうですね」




 アズランと二人部屋に戻ってそのままベッドに直行した。トルシェとマリアの寝息は相変わらずかすかに聞こえている。



 夜が明けて、ナイトストーカーが戻っていないか居間を覗いてみたが戻ってはいなかった。プチ家出ではなかったようだ。


 どこに行ったのか分からない以上、放っておくより仕方がない。



 窓の外ではまだ雨が止んでいないようだ。俺自身は寒くはないが少し気温は下がっている。マリアが風邪をひかないよう気を付けないとな。アズランがしっかりしているから任せとけばいいか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る