第143話 ナイトストーカー2


 ナイトストーカーを分解したまでは良かったが元に戻せなくなってしまった。まさに子どもがおもちゃを分解してしまって壊してしまうのとなんら差がないようなことをやらかしたぜ。


 もはや俺一人ではどうにもならなくなったので、風呂に入ることにした。



 脱衣場で衣服を脱いで、いい気分でトルシェが鼻歌を歌っている浴室に入っていった。


「ダークンさん、遅かったですね」


「ちょっとな」


 いずれ露見するが、ここでナイトストーカーを分解したら元に戻せなくなったとは言えなかった。


 軽く体を洗って湯船につかる。ふー。実に気持ちがいい。


「ダークンさん、お先に失礼しまーす」


 だいぶ長いこと入っていたトルシェが風呂を出ていった。どうせ体を拭いてドライヤー魔法で乾かしたら部屋の中を裸でうろつくのだろう。最近風呂に入っていなかった関係で野人化していなかったからな。


「おーい、居間が散らかってるけど気にするなよ」


 一応トルシェにことわっておいた。


『何も散らばってませんよー』


「?」


 よくわからない返答がトルシェからあったが、トルシェの感覚ではあの程度では散らばっていないというのかもしれない。なにせトルシェは野人だからな。


 いったん湯船から上がって体と髪を洗い、もう一度湯船に浸かって風呂から上がった。


 スケルトン時代は髪の毛がなかったので髪の手入れなど必要なかったが、こうして肩口まで黒髪が伸びてしまうと、洗髪も大変だし、髪を乾かすのも面倒だ。トルシェのドライヤー魔法がなかったらおいそれとは髪の毛が乾かないだろう。


 脱衣所で体を拭いたところで、


「おーい、トルシェ、ドライヤー魔法を頼むー」


『はーい』


 すぐにトルシェがやって来てドライヤー魔法で俺の髪を乾かしてくれた。当然トルシェはマッパのまんまだ。


「トルシェ、ありがと。ここはワンルームじゃないから脱いだものはちゃんと片付けておけよ」


「はーい」


 相変わらず軽い返事をしてトルシェは脱衣所を出ていった。俺も着替えの服を着て脱衣所を出る。


 さて、分解してそれっきりのナイトストーカーを何とかしなくてはと思って部品が転がっていたはずの居間の床を見たら、どこにも部品がない。


「あれれ?」


 居間の中を見回すと、マネキンにナイトストーカーがフルセットで着せられていた。


「トルシェがマネキンにナイトストーカーを着せてくれたのか?」


「え? 何もしてませんよ。ダークンさんが着せたんじゃなかったんですか?」


 不思議なこともあるもんだ。


 アズランはソファーに腰かけてマリアの髪の毛を三つ編みに編んでやっていたが、二人とも居間に戻って来た時にはマネキンはナイトストーカーを着けていたという。因みに風呂の後はいつも下着姿のアズランはマリアの手前か今日は普段着を着ている。そのせいか、マッパのトルシェが非常に目立つ。マリアはトルシェを見ないことにしているらしい。


 ガントレットはマネキンが着けているので、テーブルの上には、丸くなったコロとエクスキューショナーとリフレクターが残っていた。コロを腰のベルトにして、エクスキューショナーとリフレクターはキューブに収納しておく。


 謎だ。勝手にマネキンがナイトストーカーを着たのか? それともその逆なのか? マネキンはどう見てもタダのマネキン。やはり、ナイトストーカーが勝手にマネキンにくっ付いたんだよな。だんだん訳がわかんなくなってきた。



 みんなに手伝ってもらう手間が省けたのだが、どうもしっくりしない。だからと言って、ナイトストーカーをもう一度装着する気にもなれないので、この件は忘れることにした。



――まだ魔族の残党が残っていると思うが、あんな大巨人はもういないだろう。鳥人間がまだいれば退治するのは骨かもしれないが、他の魔族ならこの国の兵隊たちでいずれは掃討できるだろう。今回の出張はこれで終了だ。


――明日の朝、予定通りここを発ってそのままセントラルに戻ろう。まてまて、少し寄り道になるかもしれないが、もう一度魔界ゲートは確認しておくか。



 風呂から出て、夕食まで何もすることがなくなったので、俺はとりあえずソファーに腰を掛けて、そんなことを考えていたら、部屋の扉がノックされた。台車に乗せられて食料、食材などが届けられた。食材だけだと調理用具も何もないのですぐには料理できないが、パンや菓子、新鮮な野菜や果物などもそれなりの量届けられたので、マリアを連れてセントラルに戻る二、三日程度なら問題なさそうだ。


 台車を運んできたのが侍女たちだったが、それでも部屋の中でマッパでうろつき回っているトルシェが奇異に見えたようだ。当たり前か。


 その野人が届けられた食料、食材をキューブに収納していたら、今度はワゴンに乗せて夕食が届けられた。明日の朝は何時ごろ食事を届けましょうかと聞かれたので七時頃頼むと言っておいた。


 そのあと、侍女たちがマッパでテーブルの椅子に座るトルシェをチラチラ見ながら、給仕をしましょうかと言ってくれたが、これから俺たちは酒盛りなので長くなる。われわれのことは気にせずに戻っていいと言っておいた。


 昼食を食べてから風呂に入っただけなので、あまり腹が減っているような気はしないのだが、それはいつものこと。すぐにみんなで食事を始めた。料理と一緒に届けられた酒を飲んでいたらいい気持ちになった。


 マリアも俺たちにだいぶ慣れて来たようで、特に命の恩人のアズランと親しく話をしている。話の内容はたわいもないことのようだから、アズランも家族を亡くしたマリアのことをちゃんと気遣っているようだ。



 届けられた料理は実においしかった。昼食時に俺たちが豪快に酒を飲んでいたことを考えてか、大量の酒とそれに見合った酒の肴がそろっており、実に気が利いている。


 俺の場合、トルシェとアズランが作った料理しろものでなければ、どんな料理であれ美味しく頂けるし、基本的に腹が膨れてそれ以上食べられないということも無い。時間制限のないフードファイトならおそらく無敵だと思う。届けられた料理は実においしかったというのは、舌の全く肥えていない俺の評価ではあるがな。


 ダンジョン内で生活できるような人材がいればワンルーム用に専門のコックを雇うのも悪くない。



 そうだ! いいこと思い付いた。


「トルシェ、テルミナのワンルームでもちゃんとした料理を食べたくないか?」


「もちろん食べたいです」


「だろ? 料理のうまいスケルトンを召喚できないかな?」


「料理のうまいスケルトンですか? わたしなみの料理の腕前のスケルトンなら簡単だけど、どうします?」


「トルシェなみだと、ちょっと俺の要望からはズレるが、スケルトンにある程度修行させれば料理を覚えるのかな?」


「スケルトンだと、味見できないから厳しいかも?」


「それもそうか。だとすると、ホムンクルスで、トルシェ3号? それはそれで嫌だな」


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