常闇(とこやみ)の女神 ー目指せ、俺の大神殿!ー

山口遊子

第1話 三人団、再始動1

[まえがき]

完結作『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』の続編になります。

本編未読の方がいらっしゃるようなら、

https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020

作品中、前作の固有名詞が多数出てきますが、(注)として説明を記載しています。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 魔神『黄昏のアラファト・ネファル』を討ち滅ぼしスケルトン最上位種から一気に『常闇とこやみの女神』への神化を果たしたダークン(注1)。


 ダークンにより、『闇の右手』に進化したトルシェ(注2)、そして『闇の左手』に進化したアズラン(注3)。


 トルシェもアズランも二人とも見た目はほとんど変わっていないが、きっと彼女たちはすごい能力を得たのだろう。






 鎧の中がマッパでは女神さまとして締まらない。マッパのままだと体のどこかが擦れたりしたらしたら嫌だし、鎧を脱いだらマッパの女神などと言われてしまう。これではこれからの布教活動に支障が出てしまう。


 女神さまになったとはいえ、パッと右手を一振りすれば衣類が目の前に現れるわけでもないようだ。


 今のところ、見た目のほか特別何か変わった感じもしない。ま、いいか。


 仕方がないので、『闇の神殿(注4)』から拠点であるワンルーム(注6)まで三人で戻ってきた。もちろんコロもフェアも一緒である。暗い通路を歩きながら気づいたのだが、俺って暗がりの中で淡く発光しているじゃないか。これはいわゆる後光に違いない。実に神々しい。これこそまさに俺の神性のなせる業だな。


 後光がいつも点きっぱなしだと鬱陶うっとうしいので、消せるものなら消しておこうと思ったら簡単に消えた。もう一度点けようと思ったら、簡単に点いた。面白いので、つけたり消したりしながら歩いていたら、トルシェとアズランに痛い子を見るような目で見られてしまった。



 ワンルームに帰りつくなり、トルシェが、


「ダークンさん、一緒にお風呂に入りましょうよ、アズランも一緒に三人でね!」


 俺もアズランも何も返事をしないうちから、トルシェは着ているものをそこらへんに脱ぎ捨ててマッパになって風呂場に駆けて行ってしまった。



 トルシェを進化させたはずなのだが、見た目もあまり変わっていないし頭の中身もほとんど変わっていない。進化をしくじってしまったかな?


 まあ本人が楽しくやっているなら、そんなことはどうでもいいか。


 いままでスケルトンだった関係で風呂に入っていなかったが、久しぶりに入るのも悪くなさそうだ。ここの風呂なら三人で入っても大丈夫そうだしな。



 俺もスキップまではしなかったがルンルン気分で脱衣所に。


 鎧などの防具を体の中に収納しただけでマッパになった。これはこれで便利かも。風呂場に入ったらお湯がまだ少ししか入っていなかったのでまずは体を洗うことにする。


 すぐにアズランも風呂に入って来たので、三人並んで体を洗うことになった。



「ダークンさん、立派ですね」


「ダークンさん、邪魔じゃないですか?」


 俺の左右に座る二人がじっと俺の胸をのぞき込んで同じことをさっきから繰り返している。確かに鎧を着るには邪魔だろうが、俺の場合『収納』と『装着』で出し入れできるので下着さえ着ていればそれほど邪魔になるとは思えない。


「ダークンさん、ちょっと触ってもいいですか?」


「ダークンさん、柔らかそう、ちょっとくらいいいですよね?」


 なんだか、この二人の息が合ってきている。そして俺は身の危険を感じ始めた。


「ちょん!」


「ちょ、ちょん!」


「こら、やめんか! 二人とも」


 ……。


 久しぶりに髪の毛も洗って、お湯の中に三人で並んで入ると当たり前だがザバーと浴室に湯がこぼれた。いやー、いい気持ち。


「風呂から出たら、料理でもして久しぶりに何か食べてみるか」


「ダークンさん、いままでダークンさんに食事を作ってもらっていたので今度はわたしたちが料理を作ります。アズランもいいよね?」


「もちろん」


「二人ともありがとう、期待してるよ」



 風呂から上がり、トルシェのドライヤー魔法で濡れた体を乾かしてもらったのだが、着る服がない。だからといってまた『ナイト・ストーカー』を身に着けるのもな。


 アズランの下着はもちろんだが、トルシェの持っている下着もまるで大きさが合わないので、仕方ないから俺もトルシェ同様裸族になってしまった。


 誰が見ているわけではないが、やはり一応の文明人ならぬ女神のわが身。二人が料理用の食材を食糧庫に取りにいっている間に、収納の中から以前二人に買ってもらったマントを取り出して羽織ることにした。


 二種類あるのでどちらでもよかったが、今回選んだマントは、トルシェが買ってくれた表が黒で、裏がトラ柄のマントだ。異様に大きなエリが邪魔だが、一度くらいこのマントを身につけてやらないとトルシェに悪いと思ってこれにした。


 脱衣場の鏡の前でわが身を見れば裸の上のマント姿。


 立派な変質者がそこに立っている。マントのエリがいい味を出して、裸コートよりも断然インパクトがある。これなら、裸族の方がましだ。


 二人に見つかる前にマントは仕舞っておいた。



 二人が食糧庫から食材を持ち帰り、台所で立ち働き始めた。


 俺自身は何もすることもないので、黙って一人テーブルの椅子に座って食事のできるのを待っていた。やはりマッパで椅子に座っているのは落ち着かない。だからと言ってマッパでそこらを歩き回れば落ち着くのかと言えばそうでもないと思う。



 台所の方では二人が料理を作っているはずなのだが、聞こえてくる会話が、


「トルシェ、そんなにお塩を入れて大丈夫?」


「気にしない気にしない。だって相手は女神さま。塩が多かろうと少なかろうと気にしないよ」


「トルシェ、火を小さくした方がいいんじゃない? 煙が出てきてるよ」


「よく火を通さないと体に悪いよ」


「ダークンさんは、女神さまだからそこはだいじょうぶじゃない? あらら、フライパンに火が着いちゃったよ」


「大丈夫。この燃え上がった火で、ぎゅっと肉が引き締まるんだよ」


「えー、そんなこと初めて聞いたよ」


「それはそうでしょう。今思いついたんだから、アハハハ。アズランの方のサラダはなかなかおいしそうじゃない」


「そう? ウフフ。トルシェ、ちょっと味見してみる? ……、あーん」


 ゴリ、ガリ……。


「アズラン、中に入っている野菜? ちょっと硬いしエグイんだけど」


「そうかな、サラダだから生野菜を切ってかき混ぜたんだけど」


「サラダだったら、そんなものか。どうせ食べるのはダークンさんだから問題ないものね」


「でしょ」


 なんだか心配になってきた。確かに女神のわが身。何か食べて食あたりということはないと思うが、まかり間違って下痢にでもなると、女神さまが下痢とか死ぬまでトルシェに言われそうだ。女神さまが死ぬことがあるのかどうかは知らんけど。





[あとがき]

注1:ダークン

元日本人。この世界にゾンビとして転生し、勝手に『闇の眷属』の序列一位と名乗る。ダンジョン内で活動し徐々に進化し、スケルトン最上位種まで上り詰める。その後邪神を討滅し、自らが自身の崇める『常闇の女神』に神化した。見た目は黒髪の美女。一人称は俺。


注2:トルシェ

元ハーフエルフの冒険者。ダンジョン内でモンスターからの逃走の時間稼ぎのためケガを負わされパーティーに捨てられた。その絶命のピンチをダークンに救われ『闇の眷属』の序列二位となる。その後進化を続け、『闇の右手』となる。見た目は銀髪の超美少女。魔術の天才。一人称はわたし。キレると怖い。


注3:アズラン

元ハーフリングのアサシン。所属していた暗殺ギルドのメンバーの仕掛けた裏切りの罠にはまり絶体絶命のピンチを迎えていたところを、ダークンたちに救われ『闇の眷属』の序列三位となる。その後進化を続け、『闇の左手』となる。見た目は黒髪の超美幼女。圧倒的な俊敏性と技巧を持つ。一人称は私。


注4:『闇の神殿』

ダンジョンの一画にある広間をダークンたちが勝手に名付けた。広間の真ん中に池があり、池の真ん中にあるガーゴイルの像の口から『暗黒の聖水(注5)』が流れ出ている。


注5:『暗黒の聖水』

気力・体力の回復を促す。渇きはもちろん、飢えをも満たす。


注6:ワンルーム

ダークンたちが拠点としているダンジョン内の一画にある近代的な部屋、ワンルームマンションっぽい内部設備が整っている。

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