第2話 三人団、再始動2


 俺がマッパでトルシェとアズランが作る料理のでき上るのをおとなしく椅子いすに座って待っていたら、ずいぶん時間がかかって、やっと料理ができ上った。俺の目の前のテーブルの上に料理の乗った皿が並べられていく。


 メインとおぼしき、白い大き目の平皿に乗った黒い塊。


 隣りには普通は煮たり焼いたりする野菜で作られたボウルに山盛りの生野菜サラダ。


 手前のスープ皿に入ったスープだけは普通のコンソメスープに見える。それにテーブルの真ん中に置かれたバスケットに丸パンが山盛りに入れられている。


 俺の前だけに料理が並べられているのを見ると、どうやらトルシェもアズランも食べないらしい。


「どうぞ、味見はしていませんがおいしいと思いますよ。それにしてもダークンさん、マッパのすばらしさをご理解いただけたようで何よりです」


 別に裸族になりたくてなっているわけではないのだがな。


 テーブルの上に並べられた料理。見た目はあれだが、折角せっかく二人の作ってくれた料理だ。幾分部屋の中が煙っているのだが、料理をすればこういったこともあるだろう。


 まずは喉を湿らすために、コンソメスープから。見た目はオニオンスープの薄茶色。のように見えるのだが、スープの中には何も具は入ってないようだ。まあ、その辺りは作った人の好みだしな。


 スプーンにすくって口に運ぶ。あー、そういえば久方ぶりに口に何かを入れるわけだ。記念すべき最初の一口のお味は?


 うぐ? なに? この味? 味というか味がない? まるでお湯。


「えーと、このスープはトルシェが?」


「ダークンさん、それは私」


 アズランの作ったスープらしい。


「これは、味があまりしないんだけど」


「やっぱり。

 お鍋に水を入れて温めていたら、こびりついた焦げから色が出てきたので、これなら何回も使えるし、すごく便利な大発明だと思ってたんですが、スープにならなかったんですね。残念です」


 いや、鍋はちゃんと洗えよ。残念なのはアズラン自身だよ。


 スープは仕方がない。やはりメインをいただこう。この黒い物体がメインなんだよな。普通メインと言えば肉か魚。肉の匂いがわずかにするが、それ以上にたんぱく質とは思えない臭いがする。臭いは仕方がない。


 添えられたフォークを突き立てナイフで切ろうとしたら、フォークを突き立てた段階で、皿の上の物体が粉々に砕けてしまった。


「このお皿の上のは、トルシェ?」


「はい、はーい!」


 勢いよくトルシェが手を上げながらアピールする。いや、褒めようと思っているわけではないのだがな。


「わかった」


 炭化した部分を横にけていったところ、物体の中央あたりにわずかに肉と思われる部分が残っていた。炭まみれのその肉を口に運ぶ。


 うーん。マズい。口の中が炭でざらざらする。


 気を取り直して、ボウルに入った野菜サラダに手を伸ばす。


 見た目はそこそこよい。最初に、カボチャと思われる野菜にフォークを突き刺した。突き刺したつもりだったのだが硬くてフォークが突き刺さらない。嫌な予感というか、もはやあきらめの境地でフォークですくって口に運ぶ。


 ガリゴリ。


「このいくぶんコリコリした黄色いのはカボチャ?」


 アズランがうなづく。


 次に、緑のブロッコリーをフォークですくって口に。


 ボリバリ。


「そして、このコリコリしたのがブロッコリー?」


 アズランがうなづく。


 紫の皮の付いた野菜はおそらくナス。これはちゃんとフォークがささった。その代り、口には入れていない。


「それで、この紫のが、ナス?」


 アズランがうなづく。


 いったいどういった基準で、これらの野菜が選ばれたのかはわからないが、俺も生で食べたことのない野菜ばかりだ。食糧庫の中にはちゃんと生で食べられる野菜がそれなりにあったはずだが謎だ。


 野菜サラダだと思ったのは俺の早とちりだったのかもしれない。現にドレッシングも何もかかってないものな。これから火を加えれば食べられるようになるだろう。単に、まだ食材の状態だっただけだ。


 仕方ないので、バスケットのなかの丸パンに手を伸ばし、一口。


 うまい! これほどおいしいパンは食べたことがない。塩味しかしないパンのはずなのだが、パリパリした茶色の硬い皮のなかのもっちりした白い中身を口でかみ切りながら引っ張ると柔らかく伸びる。熱いわけではないが焼きたてのフランスパンの味がする。うーん、トレビアーン!


 その後、オニオンスープ風お湯を飲みながら丸パンを何個か頂いた。


 二人の作った料理のほとんどを残してしまったが、二人はなぜかうれしそうにしている。


「さすがは、ダークンさん。あんなもの・・・・・でも少し食べることができたんですね!」


「ダークンさんは、鉄の胃袋を持っているんですね!」


 そうですか。自分たちも料理?のできは分かっていたようだ。





 二人に確信犯的トンデモ料理を食べさせられた俺はパンだけで腹を膨らませることになった。パンだけと言っても、久びさのパンの味。俺にとってはまさに至福だか至高の味だった。



 食後の後片付けは二人で手分けしてやってくれたので、俺は何もすることはない。


 今は午後10時。時刻はなぜか分かるようになった。神さまなのだからそれくらいは普通にできるようだ。


 明日になれば、上の街、テルミナに出て衣類を購入しようと思っているので、朝まで寝ていようと思ったのだが、残念なことに俺用のベッドがない。別に今まで通り寝なくてもなんともないようなのだが、ベッドで寝てみたい気がする。


 トルシェとアズランのベッドが置いてあるあたりをうろうろしていたら、後かたづけの終わった二人がやってきた。


「ダークンさんのベッドがない!」


「それなら、私と一緒のベッドで寝ましょう」


「えー、わたしのベッドで寝ましょうよー」


「マッパの俺とマッパのトルシェが同じベッドで寝るのはお互いマズいだろ?」


 トルシェ、そこで顔を赤らめてもじもじするなよ。


「それじゃあ、私のベッドで一緒に寝ましょう」


「いや、何にしても俺自身が裸で寝たくない」


 そういって、ナイト・ストーカー(注1)を『装着』してしまった。


 やはり、こっちの方が落ち着く。ベッドで寝たい気もあったのだが、ややこしいので、今までのように、そこらのゆかに座って時間を潰すことにした。




注1:ナイト・ストーカー

ダークンの真っ黒な全身鎧。血管のような赤い模様が暗がりで浮き出る。体の中に収納されており、『収納』・『装着』のことばで、脱着できる。



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