第32話 マイルズ商会2、カチコミ


 マイルズ商会に俺の信者リストしょうかいに対する犯罪・・のオトシマエをつけるべく、カチコミをかけてやった。犯罪の証拠は、先ほど捕まえた男の証言だけだが、俺はそもそも司直しちょくでも何でもないただ・・の女神さまだ。俺が黒と言えば、灰色だろうが何だろうが黒なのだ。



 店の中で大声を上げたら、頭皮に活力を失った小太り男が店の奥に向かって、「こいつらをつまみ出せ」とか言って命令してくれた。これで正当防衛成立だ。んなわけないか。


 そろそろ俺も本気でいくぜ。


「装着!」


 鎧装がいそうナイト・ストーカーを普段着の上から装着した俺は、小太り男の短い首に左手でのど輪をかまして、そのまま片手で吊るし上げたやった。足をばたつかせて俺を蹴ろうとするのだがそのうち首が閉まったのか、白目を剥いて動かなくなってしまった。気絶したのかもしれん。


 のど輪でいつまでも吊るし上げてても仕方ない。道路でのポイ捨ては、NGだが、建物の中なら社会には迷惑にならないだろう。


 ということで、小太り男をポイ捨て。


 床に落ちたら、ゴキンとか痛そうな音がしたが、本人は気絶していたようだから痛くはなかったろう。


 足元に寝っころがられても邪魔なので、蹴っ飛ばして足元を確保しておいた。


 おっさんの後ろで成り行きを見守っていた店員たちが、伸びてしまったおっさんを引きずって逃げ出していった。『すぐ逃げろよ』とさっき言った時にはじっとしていたくせに恐ろし気な鎧を着ただけで逃げ出すとは。おっさんを放って逃げ出さなかったところは、おっさんにも多少は人望じんぼうがあったのかもしれないな。




 さーて、店の奥から何が出てくるか?


 サンダルをはいたまま全身鎧ナイト・ストーカーを装着したので、どうもブーツの履き心地が悪い。どれでもだんだんと違和感が薄れてきた。慣れなのか、ブーツの能力か?


 わが眷属たちは何をしているのかと後ろを振り向くと、


 うん? 知らぬ間にアズランはどっかに行ってしまっている。会長の方は任せろとか言っていたから、捕まえに行ったのだろう。


 そして、残った問題児トルシェは静かにしているのだが、店の入り口から順に目に付いた調度品をどんどんキューブに収納している。これは完全に根こそぎモードだな。あっ!ガラスのはまった窓まで外し始めた。


 玄関ホールの金目かねめのものを回収し尽くしたのか、俺を無視して勝手に店の奥の方に小走りに駆けていった。本人からすれば店の中に落ちている物を拾っているつもりなのだろうが、拾われている方はそうは思わないカモ・・しれない。意見の相違は現場ですり合わせてくれたまえ。命が惜しいならその際くれぐれもトルシェを怒らせないようにな。



 シナリオ的に言えば店の奥から出てくるのは用心棒の先生だろう。先生お願いします!



 奥からお出ましになったのは、背が高く痩せぎみの男だった。手足が長くて妙に顔が長い。うりざね顔という言葉があるが、こいつはへちまづらだな。その男の後ろに店の者らしい男女が数名ついてきた。


 ぼーと後ろに立っていたらケガでは済まない可能性もあるのだが、現場きったはったを知らない素人しろうとでは危機感がないだろうから仕方ないか。


「おまえ一人か?」


 手長足長が俺に聞いてきた。答える必要はないので黙っておこう。


「……」


「答えぬならそれも良かろう。誰だろうと、容赦はしない。五体満足でここから帰れると思うな」


 今のはなかなかいいセリフだったぞ、今度使わせてもらお。


 そうだ! こいつに俺の金カードAランクを見せてやったらどうするかな? さすがにランク至上主義ではないと思うが、どうなんだろ?


 腰にぶら下げた袋に入れたキューブから直接、革の首輪の先に付けた金カードを外からよく見えるようにナイト・ストーカーの上から首にかけてやった。


 それを見た手長足長てながあしながが、


「フン、おまえ、立派な鎧を着ているが、そんなものを着て機敏には動き回れはしないぞ。金カード? 作り物で俺を笑わせるな! 鎧といい金カードといい、俺にハッタリは通用せんぞ、覚悟しろ!」


 男がいきなりその長い足で回し蹴りを放ってきた。しなった感じで相当威力のありそうな回し蹴りだが所詮はタダの回し蹴り。


 俺のせめてもの忠告のつもりで金カードを見せてやったのにハッタリと取られてしまった。その結果の回し蹴りなのだが、俺にそんなものをぶち当てたら大変なことになると思うのだが。女神さまに手ならぬ足を上げたわけだから、これから起こることは天罰になるのかなー?


 グシャン!


 俺の着たナイト・ストーカーの一見柔らかそうに見える脇腹辺りに回し蹴りがヒットして、えらい音がした。


 男の足の不自然な曲がり方から見て、くるぶし辺りからのむこうずねにかけて骨折したんじゃないか? 音からすると粉砕骨折の疑いも否定できんな。いや知らんけど。


 手長足長は、痛みで軸足の力も抜けてしまったようで、そのままへなへなと尻餅をついてうずくまってしまった。脂汗を流して歯を食いしばって痛みに耐えているようだが、こいつ何しに出てきたんだ?


 こういった姿をトルシェが見たら、ヘラヘラ笑いながら痛がっている部位を踏んづけていくに違いない。こんなふうにな。


 ギャーーー!


 グジャリとした感触がブーツの裏から伝わってきた。いまのはかなり痛かったようで、とうとう手長足長は口から泡を吹いて白目を剥いてしまった。


 このところ痛みで気を失うヤツが多いな。痛みですぐに意識を手放すわけだから、逆に拷問には強いかも?


 俺が顔を上げて、後ろの方で様子を伺っていた連中を見回すと、ヒー! とか声を出して逃げ散ってどこかにいってしまった。


 

 今までの俺なら見逃しはしなかったのだが、俺の権能の一つである『慈悲』が俺を止めたようだ。これからは俺たちに直接手を出していない連中は見逃すこともあるということだな。


 さて、拾い物をしているトルシェの様子でも見に行ってみるか。



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