第164話 大神殿外観決定


 王宮を後にして大神殿建設の進捗確認のためリスト商会に向かった。


 大通りを歩いているときふと思い出したのだが、


「なあ、アズラン。『赤き左手』を叩き潰した時があったろ?」


「はい?」


「あのとき確か、ナンバーワンは出張中でいなかったんだよな?」


「出張の意味は分かりませんが、いませんしたね」


「今頃何してるのかな?」


「うーん。私たちの後をつけたりして」


「あの時、俺たちの姿を見た者は皆殺しにしたはずだからナンバーワンには俺たちのことが仇だとは分からないんじゃないか?」


「そう言われればそうですね。外出から戻ってきたら、私たちがあの辺り一帯をめちゃくちゃにしてから帰っていくところをちょうど見ていたのかもしれません」


「それなら、あの時襲って来てくれれば良かったのにな」


「ダークンさん。要は暇だから誰かに襲ってもらいたいんでしょ?」


「そういうことだ。この王都では俺たちの顔が相当売れているせいでだーれも絡んでくれないから面白くないだろ?」


「わかった! それならこっちから道を歩いている連中に絡んでいけばいいんじゃないかな?」


「それじゃあ、完全に悪人じゃないか?」


「善悪の判断は神にしかできませーん。ダークンさんが悪と言えば悪、善と言えば善! そこを逆に考えれば、わたしたちに絡まれて死んだとしたら、それは天罰ってことでしょ?」


 トルシェの言葉だが、一理あるようで、やはり一理もない。勧善懲悪は悪いことではないが、いくら慈悲の権能を持ったうえ温厚を絵にかいたような俺でもいきなり悪人呼ばわりされて、天罰が下ったら怒るぞ。


「まあまあ、もうリスト商会につきましたよ」


 アズランに言われて、前を見ると目の前にリスト商会があった。玄関の扉がパッと開いたかと思ったら、店の者たちがリスト親娘おやこを先頭に店の前に整列して俺に向かって礼拝を始めた。


 フォウ!


 身も心もとろけるようだ。もしも大神殿一杯の信者から礼拝を受けたら俺は一体どうなってしまうのだろう?



 上機嫌で、いつものようにリスト会長と、娘のマレーネに応接室に案内されていった。


「大神殿の完成予想図が3種類でき上っております。ここに持ってまいりますのでしばらくお待ちください。その3種の中から選んでいただいた大神殿の完成予想図を基に設計に入らせようと思います」


 リスト会長がそう言って、応接室の入り口の脇に立っていたマレーネに目配せしたところ、すぐにマレーネは部屋を出て、大き目の筒を持って戻ってきた。筒の中からは厚紙のようなものが丸めて入っている。その中から1枚をテーブルの上に置き、テーブルの上に用意されていた文鎮で押さえて丸みを伸ばした。リストがその図の説明をしてくれた。


 出来上がりの予想図なだけあり、色まで入ってなかなかのものだ。


「3種類とも敷地内の周辺に緑を配しています。最初のこの完成図は、神殿正面に円柱状の石柱を並べたものになります。主神殿の天井を高くとることで、主に対するわれわれ信者の小ささを知らしめます。主神殿の上には鐘楼を設け、大型の吊り鐘を下げ、王都に時を告げるといったものになっています。この絵では内部は分かりませんが、主神殿大ホールの正面はステージになっており、そのステージに主のみ姿をかたどった石像を設置するということです」


 建物は灰色の石造りのためやや暗い感じがするが、落ち着いた雰囲気はなかなかいい。ただ出入り口の間口が広すぎて、主神殿の大ホールそのものが明るくなり過ぎそうだ。さらに俺の石像を設置するというが、本人がいるのに、石像はいらないだろう。


「次の完成予想図ですが、こちらは主神殿の上には左右に三本ずつの尖塔を設けております。これらの塔も一応鐘楼になっており、6種の鐘の音が王都に鳴り響きます。内部につきましては最初のものとほぼ同じです。先ほどの神殿は御影石を使っていましたが、こちらは黒御影の使用を考えているそうで、かなり基調が黒くなっており、女神さまのお好みに合うのではと思っております」


 確かに、真っ黒ではないがかなり大聖堂が黒く見える。この黒い大聖堂と6本の尖塔が、夕焼けを背景にして力強くぶきみに建っている。これでコウモリの群れでも飛び回っていれば一幅の山水画だな。なかなか俺の好みに合致している。


「これはなかなかいいな。俺の好みだ。

 トルシェと、アズランはどうだ?」


「良いんじゃないかな」「とってもいいです」


 二人とも気に入ったようだ。


「そして、最後になりますが、この図です」


「最後のものは、天井がドーム型になっているところが特徴です。ドームの内側にはお三方が天上で戯れる姿が描かれるということです」


 俺たちが天上で遊んでいる天井画か。ちょっと見てみたいが、俺たちの遊びとなると、トルシェのスッポーンとか殺伐としたものか、酒を飲んでいるところくらいだぞ。そんなのが天井画になるのか? まさか俺たちが半裸になってヘラヘラ笑って踊っている絵でも描くんじゃなかろうな? しかも俺たちがモデルになるとか。


 ウォーー、この世界に来て初めて鳥肌が立ってしまった。


「三つめは俺としては、却下だな。俺は2番だ」


「わたしは3番」


「うーん」そう言ってアズランが俺の方を見たので頷いたら、


「私も2番で」


 アズランは苦労人なんだろうな。


「そういうことだから、リスト、2番で話を進めてくれるか?」


「かしこまりました。これで業者は具体的な設計に入れます」


「後はよろしく頼む」


「お任せください」


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