第84話 パラパラおじさん
石のお棺の中で寝てるおっさん、どうせろくでもないヤツだろうとエクスキューショナーを振り上げたところで、おっさんが目を開けた。気にせず俺は右手のエクスキューショナーを振り下ろしてやった。
エクスキューショナーはあっけなくおっさんの頭蓋を縦に断ち割った。ある程度体液的なものが飛び散るはずなのだが、おっさんの頭の中身が空っぽだったのか、何も割れた頭から流れ出てこなかった。少し不思議だったが、そういうこともあるだろうと思い、頭蓋に食い込んだエクスキューショナーを引き抜いて軽く振って鞘に納めた。
「これで一件落着だ。戻って工事の業者でも探そうか」
などと、トルシェたちの方へ振り向いて言ったところ、
「ダークンさん」
二人がお棺の方を見つめている。
振り返れば、お棺の中で頭蓋をカチ割られたおっさんが上半身だけ起き上がってこっちを向いて笑っている。
「あれ? まだ生きてたか? しぶといじゃないか」
鞘に収めたエクスキューショナーをまた引き抜いて、おっさんの胴体を輪切りにしようと斜めに振りかぶったところで、おっさんが瞬間移動のような形で十メートルほど奥の方に移動して宙に浮いている。
俺が剣を振るうより速いとは、なかなかやるじゃないか。頭をたたき割られても元気いっぱいなところは評価できる。
「寝ている儂にいきなり剣をたたきつけてきたお前、どこの馬の骨か知らぬが、その魂、喰らってやる!」
「できるものなら、やってみろ。ところで、魂を喰らうとはどういう意味だ?」
「文字通りの意味だ」
「ダークンさん。こいつ死霊術師の成れの果てのリッチですよ」
「リッチと言えばもう少し枯れたヤツを想像していたが、こいつはまだ枯れていないな。でき立てのほやほやなのかな?」
「死霊術には、体を新鮮に保つための秘術があるそうです。その秘術でも内臓だけは腐ってしまうので、自分で内臓を抜いてからリッチになるとか聞いたことがあります」
「そこまでするほどリッチになると、何かいいことがあるのか?」
「不死になるらしいです。それに同じ魔法でも格段に強力になるらしいです」
「人それぞれだから、いいんじゃないか」
俺たちが
「トルシェ。あいつ、俺たちを見ながら手先だけで踊りを始めたぞ」
パラパラ踊りと言ってもトルシェにはわかるまい。俺も実物はさすがに見たことはない。そのバカげた踊りを呆れながらも眺めていたら、背中の辺りが
まさか、この痒みはあのパラパラによってもたらされた地味な攻撃なのか? 地味ではあるが、かなり有効な攻撃だ。今の俺は全身鎧のナイトストーカーを装着している。背中を掻こうにも簡単には掻けない。孫の手があればいいのだがそんなものはさすがに持っていない。
あっ! いいことを思いついた!
『コロ、すまないが俺の背中を掻いてくれないか? 痒くてたまらないんだ』
鎧のベルト状に擬態していたコロの触手がナイトストーカーの隙間から侵入して、俺の背中を上から下にザーと動いていく。ブルブルがくるほど気持ちいい。
これはたまらん。気持ち良すぎ。先ほどまでの痒みが嘘のように消えていった。新しいコロの特技が生れた瞬間だった。
「なあ、二人とも、背中の辺りが急に痒くなってはいないか?」
「わたしは何ともありません」
「私も」
「おかしいな、痒くなったのは俺だけか? まあいいや、コロのおかげで気持ちいいし。そろそろあほヅラのおっさんをやっつけてやるか」
「それって、もしかして、あのおじさんが、ダークンさんの魂に何か仕掛けているからじゃないかな? 死霊術というのは、死体を操る魔術と考えられてるけど、実際は魂を扱う魔術だから。さっき本人が言ってたように魂を食べて自分のものにするとか」
「俺の魂をあいつがいま食べてるのか? あのへんな手つきは食べてる証拠なのか?」
「さあ、ゾンビを操るといった目立った効果、現象が現れればわたしが何とかまねできると思うんですが、あの踊りで背中が痒くなる仕組みが全く分かりません」
「天才トルシェにも解析できない高等魔術なのか! それってすごくないか?」
「ダークンさん。いくら凄くても、背中が痒くなる魔術はあまり意味がないと思います」
「いや、戦いのさなか、鎧の下の背中が痒くなったら戦いどころじゃなくなるぞ」
「そうかもしれませんが、そんなことを仕掛けるより直接殺しに行く方が効率的ですから」
「それはそうだけどな」
俺たちが雑談しているあいだ、パラパラ男はしばらく踊っていたが、今度は方針を変えたようだ。
「わが
こんどはどうも子分を呼ぶらしい。さて、おっさんの子分はどこから現れるのか?
まさか、この部屋に入って最初に粉々にしてやった四個の人形のことじゃないよね。
「どうした、
おっさんが何度かそれらしい言葉を発するのだが、それらしい返事なり、動きはどこにも現れない。ひょっとして、このおっさん、この部屋の四隅で粉々になっている人形が暗くて見えないのか?
「おい、おっさん。おまえの言う
俺が親切に教えてやったのだが、こいつは夜目が利かないらしく確認できないようだ。少しうろたえてるのか? 少なくとも自分の眷属の様子くらい把握しとけよ。
それでも、おっさんの
「いよー、パラパラ屋!」
俺の声が部屋いっぱいに響いた。なかなかいい調子だ。
「ダークンさん、パラパラ屋って何ですか?」
「ああ、あのおっさんのあだ名みたいなものだ」
「何でダークンさんがおっさんのあだ名を知ってるんですか?」
「知るも知らないも、あだ名というのは自分以外が付けるものだろ? 今俺があいつにつけたあだ名が『パラパラ屋』ってことだ」
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