第324話 夜行

「アビー!? それに――、パララまで……?」


 突然姿を見せたふたりに驚くラナンキュラス。ただ、スガワラが戻っていないことも相まって、なにか察するものもあったようだ。


「ちょうどよかった……。ラナさまにスピカ――、他のみんなも揃ってるわね」


 アレンビーはラナンキュラスとスピカ以外を、「その他」で一括りにして話を始めた。なにか不服なのか、コーグが自分を指差しながら物申したい表情でアレンビーを見つめていたが、彼女の視界には入っていないようだ。


 彼女の話は、ここに至る道中、パララに伝えた話とおおよそ同じ内容だった。




◇◇◇




「――ユタタさんと一緒に、ですか?」


 アレンビーとパララは酒場「幸福の花」へと向かっていた。先を急ぐアレンビーは走りながら、掻い摘んでパララに助けを求めた事情について説明する。


 昨日、知恵の結晶ギルドマスターのラグナは、スガワラを招いて会談をしていた。事前にその話を聞いていたアレンビーだが、ラグナがスガワラに特別な興味をもっていることは以前から知っていた。そして、今はお互いに協力ギルドのトップということもあり、さしてそこに疑問を挟む余地もなかった。


 問題はその会談の後。ギルド本部になぜか待機命令が出ていたアレンビーは、どうせならここを訪れているスガワラに挨拶でもしておこうと思った。なにやらギルド内から流れてきた話では、2人の話は盛り上がって今夜は夕食を共にするとかなんとか……。


 しかし、残念ながらアレンビーは彼に会うことは叶わず。――とはいえ、これだけなら彼女は待機命令に疑問を持ちつつも、ことをあまり深くは考えなかっただろう。



 ところがアレンビーはこの日の夜、ギルドマスターのラグナが馬車に乗って外出する姿を目撃する。彼の家はここからそう遠くはない。わざわざ帰宅に馬車を使うまでもないはずだ。

 さらに、その馬車のキャビンにスガワラが乗り込む……、というより、連れ込まれる姿を目撃してしまう。


 遠目から彼女は、スガワラが眠っているように見えた。


『夕食の席で呑み過ぎて寝てしまったのかしら?』


 アレンビーは最初、この程度にしか考えていなかった。だが、ここに自分が待機を命じられている、ことを重ねると見えてくるものがある。


『ひょっとしてスガさんがどうしてるか、私の口から洩れる可能性を考えての命令……? でも、なんでそんな――』


 不審に思った彼女は怪しまれないようそれとなく、同僚にラグナの明日の予定を尋ねてみた。すると――。


「あれ? アビーは聞いてなかったっけ? マスター・ラグナは今夜から奥様の故郷、『グランソフィア』へお出掛けの予定で、何日か留守にするって……」

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