第294話 行方

「あの……、リン様。さすがに、やり過ぎでは……?」


 王国北門の戦いは、レギルの活躍によって鎮圧された。元々、戦いを避け国外へと逃げるつもりでいた者たち、仮に避けられなくとも奇襲で退けるはずだった。

 それに対し、予め事態を想定した部隊との交戦は、それだけで十分に分が悪い。そこに王国軍でも屈指の剣士と魔法使いであるレギルとリンも加わっていた段階で、ある意味勝負はついていた。


「一般市民の目に付くところです。早急に後処理そうじにかかってください。あとは、奴らの荷物の確認を至急。『起源の書』を持っている可能性が高いですので」



 商人に偽装した集団は、やはりサーペントの――、なかでも非戦闘員の幹部が多かった。そこに少数の手練れを護衛として連れ、国外への逃亡を図ったようだ。


 しかし、王国軍と彼らの戦いは、レギルによる一方的な蹂躙に終わった。


 「相手が抵抗するようなら斬ってもかまわない」、レギルにとってこれは武装している者を斬る免罪符となる。

 北門は血に汚れ、まるで怪物が人を食い散らかした後のような――、惨状が残されていた。


 そうした場に慣れているのか、リンは無表情のまま、あくまで事務的に部下に指示をしていく。死体の処理と手荷物の確認、最も優先されるのは起源の書の発見だ。



「レギル? 無闇に斬るのではなく、話を聞けるものは生かしておくよう言っておいたはずですが?」


 返り血を拭い、乱れた髪を整えている彼の元へ歩み寄り、リンは冷たい口調でそう言った。


「生かしておく? おうおう、そのつもりだったんだがよ? 抵抗されたら仕方ねえだろう? こっちが斬られちまったら元も子もないからなあ……」


 レギルの返事に呆れを示すため息をつくリン。彼が相手の抵抗を言い訳に、容赦なく殺していくのは目に見えていた。そしてわかりきっていたことが当たり前に起こり、彼女は呆れているのだ。


「起源の書が見つかれば、でもかまわないのですが……。もしも、見つからなかったら手がかりがなくなるのですよ?」


「なんだか知らねえが、ここに無かったらアイラが攻め込んだところにあるんだろ? どっちしろ王国の敵を蹴散らせて大事なモンも取り戻せて万々歳じゃねえか」


「無事に――、の話です。少なくとも、今はまだ見つかっていません。それに他の区画からの情報でもそうした報告はないのです」


 リンは不安を募らせていた。国外へ逃げようとした者たちの荷台はあらかた見分が終わっていた。そこから起源の書は見つかっていない。

 残るは、レギルに斬られた者たちの遺体から見つかるかどうかだが、彼女はそこに希望は薄いと思っていた。


『ここでなければ、やはりサーペントの本拠地に隠されているのか……。アイラからの報告を待つしかない。けれど、そこに無ければ、一体……』



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