第295話 気の向くまま

 魔法学校の生徒、リリィ・アンバーは特に当てもなく街を彷徨っていた。本来の目的である街の消火活動に加わることもなく、ひとり街のなかをぶらついている。


 彼女の場合、なにか理由があって外へ出たかったわけではない。拘束をされているそれ自体を嫌い、自由気ままにしていることになによりの喜びを感じているのだ。


 それゆえ、街に出たところで、決まった場所へ向かうでもなくふらふらと歩き回っているのだ。


 騒ぎの激しい区画からはたしかに離れてはいた。――とはいえ、女子学生がひとり出歩いて安全であるはずもない。

 しかし、リリィの場合、その「安全ではない」というスリルすら喜び、楽しみと捉えているようだ。


 そんなリリィだからこそ、ひょっとしたらそこに行き着いたのも、ある意味必然だったのか。「危険」を一種の刺激として楽しむ彼女だからこそ、この街でもっとも危険それが凝縮された局所に導かれたのかもしれない。



『なんかエっグいレベルの魔力感じるのよねー、ビリビリ刺激が来ちゃうんだけど……、ちぃっとばっかし強過ぎる感もあるようなー?』


 なにか魔力の起点に吸い寄せられるかの如く、気配を辿り、街を歩くリリィ。そして彼女は、その起点が1人の剣士から発せられていると気付くのだった。




◇◇◇




「さて……、王国軍もギルド混成部隊わたしたちも、サーペントあなたたちが本拠地を捨てて逃げ出すのは想定していましたが……」


 サーペント直属なのか傭兵も混ざっているのか、20人弱の剣士、あるいは魔法使いの集団の前に立ちはだかっているのは、たった3人の剣士。その中心には、全身を鎧で身を包んだ仮面の騎士が構えていた。


「これは――、まさかまさか。ここまでこちらの動きが読まれるとは予想外。ましてや待ち受けているのが、あの『不死鳥』とは……」


 鎧の騎士は、ブレイヴ・ピラーのギルドマスター、「不死鳥」の異名をもつ王国最強の剣士、シャネイラ・ヘニクスだった。どうやらその横にいるのは、彼女の側近のようだ。

 そして、シャネイラと話をしている若い男の名はロウレル。先日、襲撃のあった魔法学校の教授を務めていたシモンの助手――、を装っていた首謀者の1人でもある。



「あなたたちは、自分を見つめるのがずいぶんと下手なようですね? 本拠地への強制調査……、なぜ、それに合わせてこれほどの騒ぎを起こせたのですか?」


 シャネイラの問い掛けは疑問ではなく、すでに答えを知ってのこと。サーペントは独自の情報網で、王国の動きを察知していたわけだが、それは数人の間者を潜ませていたがゆえ。

 特に、王国軍へは直接むずかしくとも、ギルドの採用・入隊基準はそれと比較して緩い。ゆえに人数の多い巨大ギルドに内通者を潜り込ませていたのだ。


 王国軍と関係の深い組織であれば、そこから情報を得ることもできる。今回、サーペントはそうして「調査」を名目とした、「制圧」を事前に知ったうえで、それを逆手にとる行動に出たわけだが……。


「そうか……。ブレイヴ・ピラーそちらはそちらで、間者の1人2人、潜ませていてもなんら不思議ではない、と。こちらの動きをある程度わかったうえで、抑止するのではなく、あえて。徹底的に潰すための口実を得るためですか?」


 ロウレルの言葉に、シャネイラは答えない。仮面ゆえに表情も読めない彼女だが、その無言はおそらく肯定を意味していた。


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