第296話 無謀

「――ですが、いくら『王国最強』と言えども、自惚れが過ぎるのではありませんか?」


 ロウレルはちらりと後ろに目をやったあとに、改めてシャネイラの方へと向き直る。彼の表情には一貫して余裕があった。それもそのはずで、目の前にいるのは、たとえ「最強」であろうとも、たったの3人。


 それに対し、彼の後ろに控えた部隊は総数20人弱。それもおそらくは、選りすぐりの精鋭と思われた。


「シャネイラ・ヘニクス――、以前サーペントこちらの刺客、オージェとアリーを易々と退けたのは聞いています。あの2人を相手にして手傷のひとつもないとは、まったくもって『化け物』ですが……、この数相手に勝負になるでしょうか?」


 彼はこう話をしながらも周囲の様子を探っていた。そして、シャネイラが別動隊を潜ませている気配はなく、本当にたったの3人で待ち構えていると悟ったのだ。



「フフ……、たしかに。一人ひとり斬っていてはずいぶんと骨が折れそうですね」


 ロウレルの問い掛けに答えたシャネイラ。その仮面の内からはかすかに――、くぐもった笑いが響いていた。


「『王国最強』などと呼ばれるのは簡単ではない。ですから――、あなたの力はなのでしょう。ですが、この状況では虚勢を通り越して、無謀ですよ? それとも、こうしてお話をしている間に応援でも呼んでいるのですか?」


「いいえ……。むしろ、味方は少ない方が都合がいいかもしれませんね。――2人は下がりなさい」


 シャネイラがそう口にすると――、側近の剣士2人はあまりにあっさりとその場を退いた。ただでさえ少ない人数だったのが、たったの1人になってしまったのだ。



「――正気ですか? ここまでくると憐れみすら覚えますが?」

「あなたは若そうですから、知らないかもしれませんが……、私はかつて王国軍に所属し、他国との争いに幾度も参戦しました」


 ロウレルは、後ろの部隊にいつでも仕掛けられるよう促したうえで、彼女の話を聞いていた。ここでどんな話をしようとも到底覆る状況ではない。ならば、最後の世迷言くらい聞いてやろうではないか、と。


「戦いの最中に秩序などありません。数の利をもって確実に敵を仕留めていく。そうした戦場で私は――、一度として負けたことはありません」


 剣士――、否、魔法剣士シャネイラの周囲に異常なまでの魔力が収束していく。この段階でようやく危機感を募らせたロウレルは、攻撃の命令を下した。


「戦場で私に味方はいりませんよ? しまいますから」

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