第297話 あっちこっち
「ふむ……、君がユージンを救ってくれたわけか。仲間の窮地を救ってくれたこと、心から感謝する」
ここはブレイヴ・ピラーの本部、街で深手を負ったユージンだが、スピカが早々にリンカの元へ送り届けたことによって彼は救われた。
その代償というべきか――、リンカの「マジカルドレイン」によって魔力をすっかり吸い取られてしまったウェズンは、負傷者と一緒に救護室で休み羽目になってしまった。
報告を聞いたグロイツェルは、ユージンの無事を確認するとスピカに心からの謝意を伝える。長身の彼だが、体を折って深々と彼女に頭を下げていた。
「あっ、あたしも以前、ヨージンさんに助けてもらいました! お返しができてなによりです! ギルドマスターのユタタさんが、人助けをしたら自分に返ってくる、と言ってましたが、ホントにそうなりました!」
「そうか……、君はスガワラさんのところの魔法使いだったか。これは彼にもお礼を言っておかねばならんな」
グロイツェルは、実年齢よりずっと子どもっぽく見えるスピカ相手にも、大人と同じ対応をしていた。彼なりの敬意なのか、それとも幼さのある子への応対に慣れていないだけかもしれない。
リンカは2人のやりとりを横目に見ながら、スピカの微妙な言い間違いに軽く吹き出していた。
「スピカちゃんさー、そのデッカい人――、うちのギルドの超エラい人なのよ? せっかくだしたっぷりお礼してもらっちゃたらいいよー?」
リンカはふざけた口調でそう言ったかと思うと、今度は急に表情を引き締め、スピカの間近まで歩み寄ってきた。
「あとね、ウェズンちゃんのことはお友達には秘密にしといて? そう遠くないうちに学校に戻れると思うからさ!」
スピカは、リンカの言葉に目を輝かせる。彼女も、そして同級生の仲間たちもきっとウェズンの容態を気にかけているからだ。
そんなスピカだが、ウェズンの話を聞いて喜んだかと思うと、今度は急に不安げな表情を見せる。隣りのリンカはころころ変わる彼女の表情が楽しいのか、口角を上げたままずっとその顔を見つめていた。
スピカの顔色は見る見る青くなり、オロオロと困惑し始める。明らかに顔色も悪くなっているが、リンカが見る限りはそれは体調不良などとは別物のようだ。
そんな彼女は、困った様子で視線を右に左に走らせ、グロイツェルの姿を見たときにピタリと止まった。
「『お友達』で思い出しました……。あの、とってもエラい人にひとつ、お願いがあるのですが……」
グロイツェルは、リンカの「おふざけ」にスピカが乗っかってくるとは思わず、ほんの少しだけ驚いた様子を見せる。
「ふむ、私にできることなら力になるが……?」
「騒ぎが落ち着いたら……、魔法学校に来てもらえませんか? 一緒に、その――、お友達と先生方に謝ってほしいんです」
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