第298話 収束と終息
サーペントの本拠地は完全に制圧された。前線で戦った剣士たちはアイラを筆頭に引き上げていく。
そして、彼らの戦いの終わりは同時に、外で戦っていたカレンたちにとっての終わりでもあった。
アイラ・エスウスは去り際に、同じく引き上げようとしているギルド混成部隊の方へと目をやる。それは偶然なのか、彼女がアイラを見つめていたのか――、カレンとアイラはそこで、今日初めて視線を交わした。
どちらともなく歩み寄り、先に話しかけたのはカレンの方だった。
「もう制圧しちまったのかい? さすが王国軍きっての騎士様だ。恐れ入ったよ」
「――その言葉、そのままお返しします。さすがはブレイヴ・ピラー3傑の1人、『金獅子』といったところでしょうか。おかげで、中に集中できました」
組織を代表する2人の女剣士は、たったこれだけの言葉を交わし、互いに背を向けた。
◇◇◇
王国軍、衛兵団、大小さまざまなギルドの活躍によって、暴動は終息していった。街の各地では、決して少なくはない被害が出ていたが、それでもきっとこれは最小限。
セントラルを中心とした魔法学校の生徒、魔法使いの見習いたちが消火活動に加わったこともそれに大きく寄与した。
街に突如として現れた「まもの」も戦い慣れた剣士や魔法使いの手によって迅速に処理された。そのなかにはパララ・サルーンの活躍も含まれている。
安全な区画へと避難していたスガワラは、騒動が治まったタイミングでラナンキュラスと合流する。彼女は自身の戦った現場をちらりと一瞥したあと、悪戯っぽく笑ってこう言った。
「おいたをした子を叱ったのですが――、ちょっぴりやり過ぎちゃいました」
その視線の先は、極小の火山でも噴火したかのように地面が下から押し上げられていた。
「ちょっぴり――、ですか……。――ともあれ、ご無事でなによりです」
「ええ。スガさんも無事でよかった」
◇◇◇
「――というわけで、このスピカ嬢のおかげで仲間の命が救われました。組織を代表して心よりお礼を申し上げます」
「こほん……、まさか『賢狼』グロイツェルさまとご一緒だったとは……」
街の安全が確認され、グロイツェルはスピカを伴って魔法学校を訪れていた。思わぬ人物の来訪に、学長代理のアフォガードがその応対をしている。
スピカは大目玉を避けられたことに安堵したのか、彼女らしいいつもの笑顔が戻っていた。
「彼女の行いは、魔法使いとしても――、人間としてもとても誇らしいことです。このような優秀な生徒を育てられた教師の方々も同様に、です」
グロイツェルはよく通る低い声でスピカの活躍を称え、彼女を魔法学校の教員たちの元へと返す。そして、去り際にひとつ付け加えていった。
「ですが――、ひとつ間違えば彼女自身が危険に巻き込まれる可能性もありました。学校側の適切な指示があったなか、無断で抜け出した彼女には相応の指導も必要かと存じます。それでは……」
最後に残された言葉を聞き、ぽかんと口を開け、大きな背中を見送るスピカ。
「こほん……。――ということだ、スピカ・コン・トレイル。あとでティラミスから声がかかるだろうから心しておくように」
「……あれ?」
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