第293話 戦闘狂

「おうおう、どうしたどうした? ギルド自慢のお抱え剣士様の実力はこんなモンかぁ?」


 アレクシア王国の北門、検問を逃れ強行突破を試みた商人――、を装った武装集団。彼らが「サーペント」に属する者、もしくはその関係者なのは明らかだった。


 街の騒動に乗じて国外への逃亡、これを予期して配置されていた王国軍。中でも隣国との国境がもっとも近い北側の門には、レギル・オーガスタ、リン・ローレライといった王国でも屈指の精鋭が配置されていた。


 そして王国軍の先頭に立つレギルは、この時を待っていた、とばかりに剣を抜き、強引に国外そとへ逃げようとする者たちへと襲い掛かる。

 彼の剣士は相手が人であろうと、まものであろうと一切躊躇なく、むしろ戦いを楽しんでいるようでもあった。



「レギルの周りには近付かないように、味方であっても斬りかねませんから。この機に抜け出そうとする輩がいないか警戒を。の援護は私ひとりでやります」


 リンはいつも通り、魔法射程ギリギリの距離からレギルの支援に回る。性格的な相性はともかく、暴走気味に戦うレギルと徹底して彼の補佐をするリンの戦いにおける愛称は抜群だった。


『本来なら人を斬るのは、少なからず抵抗がある。だけど、レギルに限っては例外。訓練や経験で乗り越えていくはずの抵抗それを、快感としている節すらある。それが、レギルの異常な戦闘能力に繋がっている』


「――品が無くて……、とても好きにはなれない戦い方だけど」


 リンは心の内でのレギルに対する分析と結論に、独り言で応えていた。



 レギルの剣術は彼の身体能力がゆえに成せる完全な我流。剣だけではなく、ときには拳に足技も織り交ぜた独自のもの。単純な腕力も強く、ネコ科のような俊敏性も持ち合わせている。


 歴戦の手練れであっても初見で彼の動きに対処し、戦うのは非常に困難だった。さらにレギルの特徴は相手の戦い方に対する驚異的な吸収力と適応力。戦いの最中で相手の技術を取り入れ、我流剣術はさらに進化を遂げていくのだ。


 彼の能力と人間性、両方をよく知る者はこれほどの才能がなぜこのような人間に宿ったのかと嘆くことも珍しくないようだ。


 しかし、おそらくレギルをもっとも理解するリンの考えは違っていた。その狂った「人間性」があるからこそ彼はここまで「強い」のだと。


『どこかネジが外れてるくらいじゃないと――、剣士はこうまで強くはなれないのかもしれない。アイラも人間としてはどこかおかしいもの』


 次々と敵を斬り伏せていくレギルの姿を見ながら、おそらくは別の場所で同じく「圧倒」を繰り広げているであろう仲間の姿をリンは思い浮かべていた。


「どちらも……、問題児ばかり」

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