第14章 

第260話 2人

 アレクシア王国ではこの日、騎士団と魔導士団によって大きな決定が下されていた。それは、ギルド「サーペント」への大規模な調査の実施。


 「調査」といえば聞こえはいいが、ことは了承の有無にかかわらず強行される。人員・規模においてブレイヴ・ピラーに次ぐ組織のサーペントだが、その結果によっては解体――、すなわち「お取り潰し」さえありえるのだ。



 元は、ブレイヴ・ピラーの調査によって、悪魔のクスリ「エリクシル」の売買・密造・密輸にかかわっている疑いから始まった。そこから、王立魔法学校の学生、教員へと調査の目は波及していく。


 決定打となったのは、先日起こった魔法学校での襲撃事件。これによって王国は、すべての魔法の原点といわれる「起源の書」を失った。


 しかし、襲撃にかかわった魔法学校の教員シモンを捕まえたことで、裏で糸を引いていた「サーペント」、さらにはその背後に見え隠れする異国の存在が明るみになったのだ。



 調査の先頭に立つのは、王国騎士団アイラ・エスウス。対象が「剣士ギルド」だけに、抵抗を鑑みての人選といえた。

 さらに、調査協力――というよりは護衛としていくつかのギルドに協力要請が入っていた。当然、ブレイヴ・ピラーにも。



「――『サーペント』は最悪の場合、解体。そうはならなくとも、相当な規模の縮小は免れないでしょう」


 グロイツェルは王国から入った協力要請の書簡に目を通し、シャネイラと話していた。そこにはカレンも同席している。


「あそこは元々、裏の界隈との繋がりで拡大してったところだろ? これを機に縁を切ってくところが多いんじゃないかい? 王国に目ぇ付けられて共倒れは御免だろうからねぇ?」


「ふむ……、横のつながりを加味すれば我々に匹敵する組織といわれているが――、裏を返せば、それらが無くなると戦力の縮小を余儀なくされる」


「今の状況でサーペントに従うか、王国騎士団を敵に回すか――、頭がちょいとわいてる連中でもそこんとこの判断は間違わないだろうさ?」


 グロイツェルはカレンの口調にわずかながら顔をしかめていたが、その意見自体には概ね納得なのだろう。小さく頷くのだった。



「王国からの要請――、今回は私が出ましょう。その方が無意味な血を流さずにすむでしょう」


 サーペントとは、少なからず因縁のあるシャネイラ。彼女の言う「血を流さず――」は、その存在ゆえの「抑止力」としての意味なのか。それとも相手が抵抗しようとも一方的に斬り捨てるだけ――、すなわち、こちら側に血は流れない、という意味なのか。

 カレンとグロイツェルはどちらとも解釈でき、どちらも事実だろうと思っていた。


「シャネイラがやる気なんだったら、グロイツェルは残ってなよ? あんたら2人揃って出払うのはよくないからねぇ」


 カレンの率いる2番隊はブレイヴ・ピラーの斬り込み部隊。荒事が想定される任務ではまず先頭に立つ部隊だ。ゆえに、カレンは最初から動く前提でいた。あとは自分が指揮を執るのか、上の2人、どちらかが動くのか……。


 そして今回は、組織のトップ――、「王国最強」と名高い不死鳥が自ら前に出ると決まった。

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