第261話 動き出す者

 ギルド・サーペントへの強行調査は、王国騎士団を中心に、限られたギルドにだけ協力の要請が回っていた。調査は抜き打ちで行われるため、王国はギルド間の横のつながりから情報が洩れるのを警戒しているようだ。



「おう、アイラ? ドでけぇギルドをぶっ潰すんだよな? 俺様とお前、どっちが斬れるか競争だな?」


 王国騎士の控える一室で入念に剣の手入れをするアイラ。彼女に話しかけたのは、レギル・オーガスタ。今回の「斬る」対象は、人間であるにもかかわらず、彼は微塵の負い目も感じさせなかった。


「――あくまで任務の名目は『調査』です。斬るのは、相手が抵抗してきた場合に限ります。邪魔をしなければこちらから手を出すつもりはありません」


「ひゃはっ! 『王国軍最強』様は、相変わらず手ぬるいぜ。他のギルドへの見せしめも兼ねて、徹底的にやった方がいいと思うんだがなぁ?」


「あなたがどう考えようと知ったことではありませんが、命令違反は許しませんので、そのつもりで。邪魔者は斬ります、相手に関係なく」


「……俺はかまわないぜ? 直接やらねえとどうにも周りは理解できねぇらしいかなぁ? どっちが上か、ってことをよ?」


「相変わらず、安い挑発ですね……。剣の腕を上げる前に鍛えるところがあるのではありませんか? あなたのお守りをしているリンを尊敬しますよ」


 アイラは言いたいことだけ言うと、レギルとは視線を合わせず部屋を出て行った。その背中を睨み付けるレギル。今にも斬りかかりそうな表情を見せるが、背を向けているにもかかわらず、彼女からは異様な気配が漂っていた。


 仮にここで背後から斬りかかっても、この女は斬れない……、レギルは肌でそれを感じ取るのだった。




◇◇◇




「ランさんに、アビーも、今日明日は幸福の花こちらに来れないみたいですよ?」


 ラナンキュラスは、ギルドの連絡用に置いている「魔法の写し紙」が発光していることに気付き、その内容を確認していた。

 協力ギルドから応援で来てくれている2人が揃って出てこれない。詳細はそこに記されていないが、スガワラはなんらかの意図を感じとる。


 ブレイヴ・ピラーと知恵の結晶、ともにこの国を代表する一角のギルドに所属するランギスとアレンビー。

 スガワラの新設ギルドの運営が安定するまでは力を貸してくれる約束となっているが、ともに所属先でも必要とされている人材だ。


 きっと規模の大きい、あるいは実績を積んだギルドだけにお呼びのかかる重要な仕事が舞い込んだのかもしれない、とスガワラは考えていた。


「逆にこういう日も大事かもしれませんね? いつも頼っている2人が、ことも想定しておかないといけませんから」


 多少の胸騒ぎを感じつつも、あくまで彼はことを前向きに捉えて、今日の活動を始めるのだった。

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