第72話 決断
「――わかりました。たしかにこの隊で抜けてもっとも戦力に影響しないのは私です。そこを考慮してくれているのなら、一時的にそちらの隊に加わりましょう」
「「スガさんっ!?」」
ラナさんとランさんが声を揃えて私の名を口にする。望んでいくわけではないが、私がこう言わなければ話に収集が付かない気がした。それにアイラさんの話から察するに配置は変われど、役割に変化はなさそうだ。
こちらの世界に来る前でも、販売の仕事をしていて突然の店舗異動があったりした。急な配置転換――、臨むところだ。
「ご協力感謝します。先日、わずかですがお話をしましたから。面識ある方のほうが私も安心です」
アイラさんはそう言って小さく頭を下げた。
「スガさん……、指揮官の命令とはいえ応援で来ているボクたちには拒否権だってあります。無理に従わなくても――」
「大丈夫ですよ、ラナさん。この任務が終わったら改めて合流しましょう」
心配そうにこちらを見つめるラナさんに私は笑顔で答えた。不安がないわけではない。だが、この場を治めるにはこの選択がもっとも確実のはずだ。アイラさんの言葉を信じるなら、「死地に飛び込め」というわけではないのだから。
「この前スガさんと一緒にいたお姉さん、スガさんをよろしくお願いします!」
ラナさんの後ろにいたコンちゃんが前に出てアイラさんに頭を下げた。張りつめた空気にはそぐわない彼女の元気な言葉。すると、アイラさんは顔を上げたコンちゃんの顔をじっと見つめている。
「えっ……と、あたしの顔になにか付いていますか?」
「――いいえ、とてもいい目をしていると思って。矛先はここにいる者でなさそうです。ならば、『まもの』でしょうか。強い意志……、『殺意』にも似たものを宿していますね」
彼女はそれだけ言うとコンちゃんの返事を待たずに背を向けた。周りの兵士に促され、私もその後ろ姿を追っていく。アイラさんの言葉――、とりわけ「殺意」が違和感と共に脳裏に刻まれた。コンちゃんにはあまりに似つかわしくない言葉だからだ。
「気を付けてくださいね、スガさん」
「はい、みんなも気を付けてください! いってきます!」
背中からかけられたラナさんの言葉に私は精一杯平静を装って答えた。まさか、これから遺跡にのり込もうというときに、仲間と離れ離れにされるとは思ってもみなかった。
始まる前からすでに波瀾を予感させる黒の遺跡でのまもの討伐。私はただ、ラナさんと――、「幸福の花」のみんなの無事を心から祈った。
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