第71話 配置転換?
翌朝、昨日の曇り空は去り、朝日が遺跡を照らしていた。私たちは突入前の打ち合わせを行っているところだ。
「先頭を進むのは王国の部隊です。私たちは他の隊と協力して後方支援、主に補給線の維持に努めます。まものとの遭遇は少ないと思いますが――、気を引き締めていきましょう!」
「僕らの先頭はコーグとケイにお願いします。ケイは剣を持っていった方がいいでしょうね。しんがりは僕が務めますから、スガさんは魔法使いの女性陣と同じ位置取りでお願いしますね!」
「まものとの交戦になったら私とスピカが先に動きます。ラナ様は切り札――、お手を煩わせないようにしますから」
王国軍からの指示を伝え、ランさんとアビーさんが率先して役回りを決めてくれる。2人からはこうした場での「慣れ」を感じられた。
「灯りは自分が持つんで……、コーグはいつでも戦えるよう準備しててください」
「おっ!? あの『ケイ・イーグリッド』が俺に譲ってくれるのか?」
「中の広さはわかりませんけど、自分のハルバードはここだと使いにくそうなんで……。短い得物ならコーグのがいいかなって?」
「よし、任せろ! ラナンキュラス殿、このコーグの剣技、とくとご覧に入れましょう!」
「ふふっ……、なにもないのが一番ですけどね」
「まものが相手なら――、あたしの全力魔法をお見舞いしますよ!」
皆の言葉が私に勇気を与えてくれる。戦いはなるべく避けたいが――、ここは腹を括る必要がありそうだ。私がそう思ったとき、この場に意外な人物が姿を現した。
王国軍の兵士を伴ってこちらにやってきたのは、先日偶然(?)お会いしたアイラさん。彼女はたしかあの不死鳥シャネイラさんと並ぶほど名の通った剣士と聞いている。
「失礼致します。私はアイラ・エスウス。先陣を切る王国軍の隊長を務める者です」
私を含め、この場にいた皆の表情に緊張が走る。王国軍の隊長がわざわざ挨拶だけのために顔を見せたとは思えないからだ。しかし、なにか目的があるとするなら一体それはどんなものか……、それはわからなかった。
「急で申し訳ないのですが――、そちらのスガワラさんを私の隊でお借りしたいのです」
「――えっ!?」
私はわけがわからず、思わず声を上げてしまった。アイラさんを囲む王国の兵士たちの視線が一斉にこちらを向く。
「お待ちください。スガさんは僕たちギルドの責任者ですが、戦闘要員ではありません。人員が必要なら他を当たってもらった方が――」
ランさんが一歩前へ出てアイラさんに詰め寄っていく。表情や口調こそ穏やかだが、そこには明らかな「拒絶」が込められていた。
「存じております。いえ――、むしろ非戦闘員ゆえに彼にお願いに来たのです。戦力として必要なら他をあたっています」
「あの……、一体どういった理由で『私』なのですか? まず理由を話してください」
私が話しかけると、アイラさんは横目でちらりとこちらを一瞥した。感情の読めない「無」を感じる目付だ。
「あなた方の隊は人数に対して前衛の戦力が不足していると思われます。ですから、戦闘要員を引き抜くわけにはいかないでしょう。――とはいえ、他を含めて人数的に余裕のある隊はあまりありません」
「待て待て待てっ! この俺やランさんが力不足だって言うのか? それにこっちには連邦で名を馳せたケイだっているんだぜ? 設立間もないギルドだからって甘く見てもらっちゃ困るな!」
「あくまで相対的な話をしたまでです。私の隊で欠員が出まして――、情報伝達とアイテムの管理ができる人員を欲しています。ちょうどこちらのスガワラさんはそういった役割なのでしょう?」
アイラさんは私の装備からなのか、部隊での役目を把握したうえで提案をしてきたようだ。
「お話はわかりましたが……、さすがに急過ぎるのではありませんか? ボクたちはボクたちなりに作戦を練っています。そちらの勝手で引き抜かれるのは納得がいきません」
「ラナンキュラス・ローゼンバーグ、たとえあなたの訴えでもここの指揮権は私にあります。決して彼に、死地へ飛び込めと命じているわけではありません」
アイラさんの口調はとても事務的だが……、彼女を囲む兵士は無言の圧力を強めている。そして、私の隊の空気も決して穏やかではない。
「――わかりました。たしかにこの隊で抜けてもっとも戦力に影響しないのは私です。そこを考慮してくれているのなら、一時的にそちらの隊に加わりましょう」
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