第314話 水と油

「――途中、先方の使者と合流する手筈となっている。正式に許可も下りていることだが……、念のため伝えておく。言動には細心の注意を払うように」



 アレクシア王城の一室、そこには王国軍参謀ハインデル中心として、数名が集められていた。

 アイラ、レギル、リンといった騎士団、魔導士団を代表する猛者も顔を連ねており、只ならぬ雰囲気が漂っている。


「特にレギル? 貴様はリンからの指示以外はなにもするな。極論、リンが『息をするな』と言ったら許されるまでは呼吸を止めていろ」


 ハインデルは明らかに冗談と思えるような話を、真面目な顔でしていた。否――、彼としては冗談のつもりはなく、本気で言っているのだ。


「はいはい、わかりましたよ。リンのご命令に従いますとも。――ったく、ってのはめんどくせーなぁ……」


「あなたの言動1つが戦乱の引き金になることもあるのです。国に入る前から1つ、命令をしておきます。『黙っていなさい』」


 ハインデルの前に集ったどの剣士も直立不動でいるなか、レギルだけは対照的にあちこちを見回しては、退屈そうに欠伸をしていた。その姿を見て、リンはこれでもかと呆れのため息をつく。



「いいか? これは『戦争』でなければ、『侵略』でもない……、『共闘』だ。少ないながら選りすぐりの精鋭を集めたのもそのためだ」


 ハインデルは集められた面々の顔を1人ひとり見つめていく。それなりの決意、野心に満ちた表情が並ぶなか、無表情のアイラと視線すら合わそうとしないレギルは、異質の存在だった。


「今度こそ同じ戦場とこで戦えそうだなぁ、アイラよ? どちらが上か、ここではっきりさせてやるぜ?」

「――面倒事だけは起こさないでください。なんならリンに首輪でも巻いてもらったらどうですか?」


 アイラへの対抗心――、否、王国軍ここでの「最強」に強い拘りをもつレギルは彼女を睨み付けるが、当のアイラは視線すら合わせずに呟くのだった。


 王国軍でも屈指の剣士でありながら、相容れない2人。彼らを伴った王国の少数精鋭が送り込まれるのは、隣りの連邦に属する一国、その名は「グランソフィア」。とある信仰により成り立つ宗教国家だ。


 この国ではずっと以前から、2つの宗派が対立をしており、時として内戦にまで発展していた。国が先導する「正統」に対して、それに反する「異端」の存在だ。


 今回、アレクシアの王国軍は少数の戦力を投入し、この異端の排除に協力することとなった。その理由は――、彼らの元に「起源の書」がある、という情報がもたらされたからだ。

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