第315話 隊長

 カレンは自宅の外へ出ると、全身をうんと伸ばして朝日を浴びていた。明らかに戦闘を意識した服装に、腰にぶら下げた2本の愛刀。その挙動はこれから散歩にでも出かけるような雰囲気だが、実際はそんな平和的な用で出てきたわけではないのだろう。


「おー、おー、おー? 3番隊の連中が張り付いてると思ったら、まさかまさかのうちの隊かい? 張り込み方、気配の消し方……、もうちょいしっかり教えてあげないといけなかったかねぇ?」


 カレンの前には誰もいない。だが、彼女の問いかけはたしかに届いていたようで、その視線の先――、物陰から数名の男が姿を現した。


「カレン隊長、今は謹慎の処分を受けておられるのです。こう――、当たり前のように外出されては我々が困ります」


 男はどうやら、彼女が指揮するブレイヴ・ピラー2番隊に所属する剣士のようだ。ばつが悪そうな顔をしながらカレンと話している。


「あんたたちをここへやったのは、大方グロイツェルあたりかねぇ……。私が無茶をしようものなら、その部下がその責を負う――、力づくで閉じ込めるよりよっぽど効果的ではあるだろうさ?」


「ご理解されているなら家へお戻りください。我々もですが、3番隊も見張り役で動員されています」


「ははっ! 身内のお留守番に一体どれだけ人をかける気だい? 放っておいたらそんなに悪さすると思われてるのかねぇ、私は?」


 見張りの男たちが答えに窮していると、後ろから若い男が姿を現した。普段はカレンの側近を務める2番隊副長のサージェだ。


「カレンさま……、どうかマスターやグロイツェルさまが帰還されるまで間だけ、外出はお控えください。きっとそう何日もかからないでしょう」


「おー、サージェもいたのかい? あんたらには悪いことしたねぇ……。隊長が利かん坊なばっかりに任務を外されるは、訳のわからない見張りをさせられるは――」


 彼女の言葉に部下の男たちは互いの顔を見合わせていた。そして、皆揃って強い意志を宿した目でカレンを見つめる。


「詳しい事情は知りませんが――、カレンさまがマスターから処分を言い渡されたのは相応の理由わけがあるのだと察してはいます。我々はそれを迷惑とは思っておりません」


 仲間の代弁をするように、サージェがそう口にする。それを聞いてカレンは軽い笑みを浮かべるのだった。


「さすが――、私の下に着いているだけはあるねぇ。よーくわかってるじゃないかい。それなら……、ついでに訊くけどさ」


 サージェは虚を突かれた顔をしていた。どうやら、ここからさらになにか問われるとは思っていなかったようだ。


「あんたらの隊長はさ? の妨害で止められる人間だと思うかい?」

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