第15話 油断
崖道の途中、崩落によって道が塞がっていると聞いたスワロー一座とスガワラたち「幸福の花」一行。
不測の事態に備えて、2台目の馬車の荷台に集まった旅芸人一行とスガワラ。スピカは外に出て背後――、すなわちやって来た道側を警戒していた。
ランギスとアレンビーは道を塞いでいる男性2人組に細かく話を聞いている。
「――お兄さんたちもこの先の村を目指してらしたんですか?」
「ああ、途中で道が崩れててさ? 恐れ入ったよ。慌てて引き返して来たってわけさ?」
「このすぐ先ですか? ちょっと見に行って来ますよ。僕らも何分急いでますからね、多少無理してでも通れそうなら突き進みたいんです」
「おいおい、おっさんやめとけって! あんな大きな荷台の馬車なんて通れっこねぇよ!?」
若い男2人はランギスの行く手を阻むように手を広げる。しかし、彼はそれを押し退けて無理矢理通ろうとしていた。
「おかしいわね? ここまでの道中、別の馬車と一度すれ違った気がするのだけど……。ここってたしか一本道よね?」
「ないない! あるわけねぇさ。オレらずっとここにいるけどよぉ――」
「ふぅん……。さっさと引き返したらいいのにどうしてこんなところにずっといたのかしら?」
アレンビーの言葉に男たちは絶句する。失言に今頃気付いたようだが、向けられた疑惑の目から逃れるには手遅れと察したのだろう。2人は慌ててランギスとアレンビーから距離をとった。
そして、脇差ほどの長さの剣を抜き、彼らに向ける。
「ちっ! 勘のいい奴らだぜ!」
「だが、時間は十分稼げた! もう直、本隊が到着するはずだ!」
2人組の男と相対するランギスとアレンビー。ランギスは落ち着いた所作で腰に下げていた剣を抜く。アレンビーは背負っていた杖を手に取り、その先を男たちへと向けた。
「まったく……、『三文芝居』でももう少しマシにできないのかしら? 丸焦げで崖から落とされたくなかったら立ち去りなさい」
「僕はほら? 一応、『ブレイヴ・ピラー』の人間ですからね! 下手に逆らわないのが身のためと先に忠告しておきますよ?」
ランギスは服に縫い付けられた組織の紋章を指して見せた。スガワラのギルドにはまだ制服と呼べるものはない。
刃物を向けてもまったく動じる様子を見せない若い女。そして、見た目は決して強そうではないが、あの「ブレイヴ・ピラー」の紋章をもつ小太りの男。
道を塞いでいた2人組は、相手が只者ではないことを理解していた。しかし――。
「ははっ! ほざきやがれ! 本隊のご到着だ!」
「てめぇらこそ、金品まとめてここに置いていきやがれ!」
威勢よく吠える2人組。アレンビーがちらりと後ろを見ると、来た道からも若い男が2人、武器を手に馬車の方へと向かっているところだった。
『あっちにはスピカがいる――、魔法の力は十分な子だけど』
アレンビーは前の2人、後ろの2人をどう相手するか、瞬時にいくつかのパターンを想定して動こうとした。そのとき――。
「アビーさんは後ろ、コンちゃんの加勢を頼めますか? こっちのお兄さんたちは僕にお任せください」
ランギスはこれまで言葉を交わしたときよりも幾分か落ち着いた低い声でアレンビーに指示を出した。
アレンビーはそれに小さく無言で頷き、応える。
『その選択がベストよね。頼りになるじゃない』
ランギスが視線で男たちを牽制し、アレンビーは後ろの馬車の元へと向かおうとした。しかし、遅れて2人は、前にいる男たちの言った「本隊」の真の意味を理解する。
「動くな、女! 馬車をぺしゃんこにされてえのか!?」
「オレらの本隊はこっちだ、ばーか!」
決して広くないこの道。片側は崖になっており、逆側は山肌の露出した壁となっている。道を塞ぐ男たちの視線はその壁の上に向かっていた。
その先には数人の男たちと――、大きな岩が佇んでいる。あの男たちが一斉に力を加えたなら真っ直ぐに馬車の下に転がり落ちてきそうだった。
『私としたことが……、抜かった。こいつら最初から足止めさえできたらよかったんだわ』
アレンビーは誰にも聞こえないくらいの小さな舌打ちを洩らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます