第6章

第94話 隊長

 カレンたちブレイヴ・ピラーの先行隊が遺跡内の中継地へ戻ると、そこにグロイツェルの姿があった。


 彼はカレンたちの姿をその目に止めると、向こうから歩み寄って来た。歩きながらカレンの率いている仲間の様子を観察し、なにか納得したように頷いている。


「よう、グロイツェル。報告と相談が1つずつだ」


「相談は、隊の人員交代か休憩のどちらかか? なら、お前も含めて休め。まもの殲滅は長期戦になる。今は無理をするときではない」


「ははっ……、理解が早くて助かるよ。ありがたく休ませてもらうとするかねぇ」


 彼女は隊の仲間の分も含めてグロイツェルに礼を言葉を伝え、続けて自分の進んだ道の状況を説明した。


「――東から先行していた王国軍と合流したのか? なるほど、遺跡内で繋がっている道があると知れたのは収穫だ」


 グロイツェルは続けて、今の北側入り口の戦況をカレンへと伝える。


 いくつかの分かれ道を進んだ部隊もその先でまものと交戦。負傷者が出て引き返してきた隊もいくつかあるようだ。死者が出ていないのが不幸中の幸いといえた。

 さらにリンカから伝令があり、外でもまものが確認されたそうだ。もっとも、こちらは周囲の守りを固めていた王国軍が引き受けてくれているという。


「入り口付近がやられたら中の私らはおしまいだろう? 外に援軍を出さなくてもいいのかい?」


 カレンは遺跡の出口へと続く方向を顎でしゃくって見せた。


「外にはリンカがいる。の戦況把握能力はマスターが認めるほどだ。そのリンカがなにも言ってこないのだから大丈夫なのだろう。ゆえに――、我々は中の敵に集中する」


「たしかにねぇ……。あれでもうちょい責任感があったら立派な『隊長』なんだけどね」


「ふむ……。私の不在を任せられるだけでもありがたいというものだが――」

「だったら任務が終わったら、手首でも切って血でも恵んでやったらどうだい?」


「冗談ではない。普段はどこで油を売ってるかわからんやつだ。たまには人一倍働いてもらわんとな」


「ははっ……、違いない違いない。珍しくあんたと意見が合うねぇ」



 カレンはそのあと、グロイツェルの部下から休憩所を案内され、仲間を引き連れてそちらに歩いていった。しかし、途中でカレンだけその足を止めて再びグロイツェルの元へ歩み寄る。


「王国軍の総司令は――、あんたのお兄さんなんだっけ?」


「ああ。だが、ここでは単なる王国の参謀としか思っていない」


「……あんたに限って大丈夫とは思うけどさ、変に意識するんじゃないよ? グロイツェルは今、ブレイヴ・ピラーの『要』なんだから」


「お前がそんなことを気にするとは……。外の隊に避難命令を出さんとならんな。槍が降ってくるかもしれん」


 グロイツェルの言葉を聞いて、カレンは盛大に吹き出してみせた。グロイツェルがいつもの無表情のまま、冗談を口にするとは思っていなかったのだ。


は私に任せなよ。伊達に2番隊の隊長張ってるわけじゃないんだ。あんたは後ろでどっしり構えてたらいい」


 カレンは一方的にそれだけ告げると、軽く手を振ってグロイツェルから離れていった。そんな彼女の背を見つめながらグロイツェルはひとり呟く。


「兄上――、ハインデルがどのような策を立てていようとも、マスターから預かったこの部隊は必ず無事に帰還させる。それが私の役目だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る