第95話 ラナンキュラスの提案
「スガさんが、消えた……?」
ラナンキュラス率いる「幸福の花」とアイラ率いる王国の部隊は遺跡の通路で合流していた。
アイラの姿を目に止めたラナンキュラスたちは、そこにスガワラの姿もあると思っていた。ところが合流してみると、期待していた彼の姿だけがない。疑問と不安が過る中、アイラはスガワラを見失った経緯を説明する。
「――信じがたい話かもしれませんが、私の背中から突然姿を消しました。彼がいなくなった広間は行き止まりになっているため、今は捜索隊を派遣して調べさせています」
ラナンキュラスは怒りと不安の入り混じった複雑な表情をしている。怒りの矛先はアイラなのか、それとも無理にでもスガワラを引き留めなかった自分自身なのか……。
「無責任ではありませんか!? 私たちのマスターを連れて行ったのはあなたでしょう? どうして目を離したりしたのです!?」
言葉を荒げたのは意外にもアレンビーだった。彼女はおそらく――、ラナンキュラスの代弁のつもりなのだろう。
先ほどから彼女はなにかを言おうとしてそれを押し殺しているようである。きっとさまざまな感情が交錯しているのだろう。それをうまく言葉にできないでいるようだ。アレンビーはそれを察してかアイラに食って掛かっていた。
「――でしたらずっと手を繋いでいろ、とでも言うのですか? もちろん捜索の人員を惜しむつもりはありません」
「それはそうですが……、彼はひとりでは戦えない人です! そちらの隊に加わったのも危険は少ないと仰られたからで――」
アレンビーはさらになにか言おうとするが、ラナンキュラスがそれを制する。彼女の見つめる先はアイラの右手だった。
その手は力強く握られ小刻みに震えている。アイラの――、おそらく自身へ向けた苛立ちが伝わってくるようだ。
「王国騎士団指揮官の名と誇りにかけて、彼を必ず見つけ出します。あなた方には本当に申し訳なく思っています。ですが、ここはどうか我々に任せてください」
アイラはそう言って深々と頭を下げた。王国軍の仲間たちが驚くほどに……。
「あなた方はこのまま一度引き返してください。見たところ、それなりに消耗がある様子。それにスガワラさんの行方が知れない今、冷静さを欠く恐れもあります」
彼女の意見はもっともだった。スピカとアレンビーはそれなりに魔力を消耗しており、彼女たちの援護が弱まれば当然、前をつとめる剣士たちのリスクも高まるのだ。
「うーん……、僕もスガさんが心配なのですが、今は彼女の命令に従うのが得策かと思います。一度、体を休めてから僕らも捜索隊に加わえてもらう、というのでいかがでしょう?」
ランギスは場を治めるように穏やかな口調でそう言った。彼はこうした状況にも慣れているのか、その胸中は別としてとても冷静にふるまっている。
「彼が姿を消した場所は先へ続く道がありませんでした。ですので、危険は少ないはずです。あなた方が希望するならそこの調査にまわしましょう」
「アイラ様は――、この先どうされるのですか?」
ずっと黙っていたラナンキュラスがここでようやく口を開いた。アイラの顔を真っ直ぐに見つめ問い掛けている。
「この通路をそのまま進みます。未踏の道を行き、まものを殲滅するのが私の役目ですから。申し訳ありませんが、捜索隊に加わることはできません」
彼女の答えにラナンキュラスはうっすらと笑みを浮かべ、小さく頷いた。
「――でしたら、今度はボクの提案を聞いていただけませんか?」
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