第96話 選択

「ユタタタさんが心配です。魔力が回復したらすぐにでも捜しにいかないと――」


 スピカは遺跡内の中継地でポーションを飲みながら休んでいた。彼女の横ではアレンビーも同じく腰を下ろしている。


「ラナ様の気持ちを考えると、こうして休んでいる時間もホントは惜しいのだけど――、焦りは禁物だからね」


 アレンビーは小瓶のポーションを一気に飲み干してからスピカと、それに自分自身を諭すようにそう言った。


「しっかし、遺跡で急に人が姿を消すなんて聞いたことないけどな? 王国の指揮官殿はなにか隠してやいないだろうな?」


「やめとけよ、コーグ? デカい声でそんなこと言ったら敵をつくるだけだぜ?」


 ケイとコーグはスピカたちより少し離れたところで腕組みして立ち話をしている。やはり、「休憩」と言われても状況が状況なだけに落ち着かない様子だ。


「とにかく僕たちは万全の状態でスガさんの捜索に向かいましょう!」


 ランギスはいつもと変わらない調子で、皆の気持ちをまとめるようにそう言った。




◇◇◇




「――驚きました。まさか伝説の『ローゼンバーグ卿』が私たちの部隊に同行してくれるとは」


 アイラは後ろを歩くラナンキュラスの姿がかろうじで視界に入る程度に振り返った。


「スガさんを助けるための選択です。あなたの言葉を信じるなら――、スガさんのいなくなった広間での捜索はもう十分なされたのでしょう?」


「仰る通りです。なにが起こったのかわかりませんが――、あの広間にはもういないと考えるのが妥当でしょう」


「でしたら、まだ誰も足を踏み入れていないところに迷い込んだ可能性が高くなります」


「それで――、私たちと共に行く選択をしたわけですか……。同時に圧をかけているのですね? 彼の捜索に全力を尽くすようにと?」


「もちろん。彼の身を蔑ろにするようならたとえ王国軍であろうとボクは容赦しませんから」


 ピリピリと張りつめた空気が場を包み込む。


 アレクシア王国伝説の魔法使い「ローゼンバーグ卿」と王国軍最強と名高い「アイラ・エスウス」が只ならぬ気配を漂わせているのだ。


「安心してください。私も後ろにいる者たちも――、彼の身を案じています。うまく言えませんが、不思議な魅力のある人ではありましたから」


「あらあら? スガさんを好きになってもダメですよ?」


「ふざけたことを言わないでください」



 ラナンキュラスからの提案で、彼女はアイラ率いる王国軍に加わった。スガワラの捜索をするうえで、この選択がもっとも迅速で効率的と判断したようだ。


 ラナンキュラスの心に焦りがないと言えば嘘になるだろう。ただ、極めて優秀な魔法使いである彼女は、己の感情よりスガワラを見つけるための冷静な行動を優先したのだ。


 ただし――、彼を危険な目に合わせてしまった王国軍に対しては時折その牙をのぞかせていた。

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