第41話 警告
「シリウスという生徒は4回生の首席で、魔法ギルドへの推薦も決まっていたようですね? それが罪状こそ不明瞭ですが、衛兵に連れて行かれたとか?」
ルーナの話にアフォガードは黙って紅茶を啜っている。ただ、見方によっては話の先を促しているようでもあった。
「ウェズンは――、スピカも仲良くしていた生徒のようですね? なにやら体調が以前から優れず、療養のための休学だとか?」
「ふむ……、君の言う通りだ。その話に以上も以下もない。君の話したそれらはすべて事実だ」
「スピカがそのシリウスという学生と争っていた噂も聞いています。あの子が退学を言い出す前に――、です」
「学校が長期休暇に入っていた期間だ。相手がいなくて寮の上級生と練習をしていたとしても不思議ではなかろう?」
ルーナはアフォガードの返答を聞き、彼の目を覗き込みながら少しの間、黙り込む。
「くふくふ……、『伝えらえる限りの情報』と仰った割にはなにもお話してくれないのですね?」
「逆だ、ルーナよ。私が話せる程度のことをお前はすでに知ってしまっている」
ルーナは考えた。アフォガードの言葉の裏を読み取ろうとする。彼が話せる程度――、すなわち迂闊に口にはできないなにかがあるのかもしれない。
ただ、この教員は信用こそできるが、憶測でものを語る人間ではない。不明確な情報を不用意に話すつもりはないのだろう、と。
「――ルーナ、私にもわからないことが多い。ただ、ここは単なる魔法学校ではない。さまざまな思惑が渦巻く場所でもある。下手に詮索しないよう忠告しておく」
魔法の発展とともに繁栄を成したアレクシア王国、その人材育成と研究の最高機関であるセントラル魔法科学研究院。単なる学びの場だけではなく、王国や魔法ギルドといったさまざまな組織との結びつきもある。
それらは公にされているものもあれば、当然そうでないものも存在するのだ。
アフォガードは忠告というより、警告しているのだ。彼もおそらくすべてを知っているわけではない。しかし、いわばセントラルの「暗部」ともいえるところにスピカは関わってしまった可能性が高い。
それゆえに彼女は半ば強制的に退学せざる得ない状況に追い込まれたのではないかと――。
ただ、そこに探りをいれることは一個人のレベルには収まらない危険な「なにか」に触れてしまうかもしれない。
ルーナ・ユピトールは自らその「なにか」に触れようとしている。アフォガードはそれを止めようとしているのだ。
「くふくふくふ……、王国を退いたときに魔法使いとして生きる道は半分捨てていますから。先生方や学生たちに迷惑かけないよう心がけますよ」
「そうではない。お前の身になにかあっては――」
「なにがあると――?」
アフォガードが言い終える前にルーナは問いかけていた。不敵な笑みを浮かべながら……。
「どこの、誰が……、私を危険な目に合わせられますかねえ? このルーナ・ユピトール相手に一体誰が? くふくふくふ」
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