第100話 戦況報告
空が茜色に染まり始めた頃、「黒の遺跡」でのまもの殲滅は主力部隊のほとんどが一旦退き、休憩をとっていた。
未踏破だった遺跡の奥は複雑に道が入り組んでおり、最深部へはまだ誰も辿り着けていない。まものの抵抗も激しく、遺跡の外からの襲撃もあった。
短期決着はむずかしいと判断した王国軍は、主力を一度下げ、今は予備隊を前線に出して守りを固めている。
王国の動きに合わせて各ギルドの混成部隊も同様の動きをとった。主戦力を中継地点まで下がらせ、後ろに控えていた部隊を前線に投入。あくまで、開拓した道の警備と防衛を目的として展開したのだ。
遺跡の北側、出口に近い拠点ではグロイツェルとリンカがそれぞれ、中と外の状況を確認していた。そこに奥から引き返して来たカレンとパララ、そして別動隊で動いていたサージェも合流している。
「あっちこっちで怪我人出てるんですけどねー。うちの精鋭たちは流血もなしですかー? ちょっと期待してたんですけどねー」
リンカはいつもの間延びした声でそう言った。おそらくは彼女なりに仲間の無事を喜んでいるのだろう。ただ、「血」が絡む場合、彼女の話は冗談なのか本気なのか、判断が付きにくかった。
サージェはこうしたリンカ独特の「おふざけ」耐性が低いようで、不快感を露わにしている。彼が下手にかみつく前に、カレンは彼女の下らない言葉をあえて拾うのだった。
「――ったく! あんたはまものの味方か? 救護隊ならもうちょっと仲間の心配しろってんだよ?」
カレンは拳でリンカの頭をポコポコと叩く。その姿を特に笑うでもなく、無表情に見つめながら、今度はグロイツェルが口を開いた。
「ふむ……。リンカがこの調子なら外も特に問題ないようだな?」
「はいはーい。外に湧いたまものは王国軍がよろしくやってくれてるんで問題ないですよー。負傷者の手当てはまぁ……、なんとかうちの隊だけで間に合ってる感じですかねー」
「他の経路の様子はどうだ?」
「うーん、と――、東はカレンたちが合流した隊が主力で、そっちも今は下がってるようですよー。同様に西の混成部隊も今は進行を止めて守りを固めてますねー」
「リっ…リンカさんってその……、す、すごいんですね! ここ以外の状況もはっ把握してるなんて!」
パララは休憩を挟んだことでスイッチがオフになったようだ。皆がよく知るどこか頼りない彼女に今は戻っている。
カレンはそんな彼女が愛おしいのか、背中から抱き着いて頭を撫でまわす。
リンカはそんな2人の姿を目を細めて見つめ――、それからグロイツェルへの報告を続けた。彼女はその際、意図的に南側の状況だけ小声で、カレンたちに聞こえないよう話したのだ。
それは話の内容に、スガワラが遺跡内で姿を消したこと、が含まれていたため。リンカはこの情報をまだカレンやパララの耳に入れない方がいいと判断したようだ。
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