第3話 初仕事
スピカさんの選んだ依頼書をみんな揃って見つめている。
「旅芸人の護衛、とありますね?」
諸国を巡業中している旅芸人一座を護衛するのが依頼の内容だ。アレクシア王国の各地を共に巡り、盗賊などの襲撃から守る任務。あとは多少の雑務の手伝いも含まれているようだ。
「人数は3、4人程度――、私とランギスさんにスピカさんでいけそうですね?」
「アレンビー先生! ここ見てください! スガワワユタタさんのお力もきっと必要ですよ!?」
――スガワワユタタ……?
スピカさんが指差すところは依頼書の端っこ。欄外に追記がされているのだ。
『※道中、おもしろいお話をできる人歓迎。無口な方はお断りさせていただきます』
「いやー、スピカお嬢さんは細かいところまでよく見てますね! たしかにこれはスガさんが適任かもしれませんよ!」
ランさんは大袈裟な仕草を交えてスピカさんを褒め称えた。彼女はそれを聞いてとても嬉しそうにニコニコしている。
たしかに依頼書を見る限り3人でも4人でも報酬額は変わらない。ならば、なにか名目を付けて私が加わってもいいのかもしれないが、果たして……?
私も含めてランさん、アレンビーさん、スピカさんの4人。拘束は丸1日とある。ならばラナさんは酒場に残るのだろうか?
「とりあえず依頼を受けてみましょうか? 他に先を越されると勿体ないですからね?」
ラナさんはそう言って依頼書に署名をし、ハンコを押している。
特殊な魔法をかけられた書面は、書き込んだ内容がそのまま依頼主の持っているであろう控えに投影され、その場で意思を伝えられるのだ。
「依頼の日は酒場もやっている日です。ラナさんひとりに任せてしまって申し訳ありません」
「大丈夫ですよ? ブルードさんもいますし、スガさんもこれからはこちらが本業になっていくでしょうから――、ボクもがんばらないと」
ラナさんの笑顔に安堵する。彼女の言う通りで、ギルドマスターとなったからには自分の生活だけでなく、所属メンバーの仕事にも気を配らないといけないのだ。
ポチョムキンさんは特になにも言わないが、どうやら留守を務めてくれるつもりのようだ。
こうして私のギルド「幸福の花」の初仕事が決まったのである。
◆◆◆
――依頼の当日。
午前中に私たちは、城下町で旅芸人の一座「スワロー」と合流した。少し肌寒さを感じるが天気は晴れ。陽が高くなってくればきっと気温も上がってくるだろう。
彼らは大きな荷馬車2台を率いて町から町へ――、時には周辺諸国までも巡業しているそうだ。人数は6人。
私はスワローの座長を務めるノーラン氏にまずは挨拶をした。背丈の低い初老の男性で、年齢ゆえの白髪なのだろうが染め上げたように整っているのが印象的だ。
「本日は私共の依頼を引き受けてくれてありがとうございます。私がスワローの代表を務めますノーランです。どうぞ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願い致します。『幸福の花』代表のスガワラです。護衛から雑務含めて――、今日はしっかり務めさせていただきます」
彼らは今日、公演を3つも控えている。それもすべて違う場所で――。なかなかの過密スケジュールだ。
ノーラン氏の話によると、売上金を持ったまま移動をするため盗賊に狙われることが稀にあるそうだ。そうした事情もあって、普段なら懇意にしているギルドから決まった人員の護衛を手配してもらっている。
ところがたまたま今回に限ってその手配ができなかったらしい。それゆえ1日限りの護衛を求めた、これが依頼の経緯。
私はひとつ――、気になっていたことを尋ねたみた。依頼書にあった「例の一文」についてだ。
「あの……、依頼書にあった『おもしろいお話をできる人歓迎』というのは?」
ノーラン氏は一度咳払いをしてから2度3度首を振って周囲を見回していた。そして、離れた場所にいる人と目が合ったのか、何度か頷いて手招きをしている。
「それについては――、うちの看板たちの我儘なんですよ?」
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