第4話 看板

 小走りでこちらに駆け寄って来たのは2人の――、双子だろうか? 顔立ちから体型まで瓜二つの男女が姿を見せた。年齢はスピカさんと同じくらいだろうか? 


「我が『スワロー』の看板、マクリオとアクアです。2人とも、こちら本日の護衛を引き受けてくださったスガワラさんとその御一行だ。ご挨拶なさい?」


 ノーラン氏に紹介され、男の子がマクリオくん、女の子がアクアさんだとわかった。カーキ色のボブカットをした2人。背丈はややマクリオくんが高いが、男性の平均からすると低い方だろう。


 私と――、きっと後ろにいるランさんやアレンビーさん、スピカさんも同じ反応をしていたのだろう。彼ら2人の姿を交互に見比べてしまっていた。



「双子なんです。一応、僕が兄でマクリオといいます。こっちが妹のアクアです」


「アクア……、です」



 マクリオくんはまるで妹を守るかのように一歩前に出てそう言った。彼の背中に半分身を隠しながら消え入りそうな声でアクアさんも一緒に名乗る。



「馬車の道中、どなたでも結構ですのでこの2人の話し相手になってほしいのです」



 ノーラン氏によると、マクリオくんとアクアさんは共に芸の経験こそ豊富なのだが、妹さんの方が極度の「緊張しい」だという。たしかに彼女からはすでにその雰囲気が漂っている。


 アクアさんは公演の場所が近付くにつれ緊張が高まっていき、なにかで紛らわせないと芸を披露するどころではなくなるそうだ。この兄妹はペアで見世物をするため、どちらか片方でも動きが鈍るといけないらしい。



 ノーラン氏はこれまで、仲間内でアクアさんを緊張させないようにあれやこれやと手を打ってきた。その結果、誰かと話をすることがもっとも効果的だとわかったようだ。

 しかし、巡業中、常に新しい話題をもっている人などなかなかいない。意外にも兄のマクリオくんでは彼女の緊張を解きほぐしてあげられないそうだ。


 そうした経緯から「物は試し」程度の気持ちで依頼書に例の一文を加えた。それが偶然、スピカさんの目に留まったわけだ。



「あたしはスピカ・コン・トレイルです! よろしくお願いします!」



 スピカさんは双子の兄妹が同年代ゆえか、歩み寄ってぺこりと頭を下げて挨拶をしていた。マクリオくんはそれに頷いて応えているが、アクアさんは兄の背中から出てこようとしない。



「――主役はあの子たちなんでしょう? あんなで本当に大丈夫なのかしら?」



 私の後ろでアレンビーさんがこう口にした。きっと彼女だけではなく、ランさんも同じように思ったことだろう。彼女の言葉は、私を含めたここにいる者の代弁だと思った。




 私たちの任務は移動中の護衛。――とはいえ、依頼書の文言には「その他雑務」とも記載されている。

 私たちはまず、これから始まる公演の舞台の設営を手伝うことになった。荷馬車に積んである部材を運び出し、スワローの人たちが手際よくそれを設置していく。


 スピカさんとランさんは荷物運びを楽しそうに――、アレンビーさんはとても面倒くさそうにしながら手伝っていた。


 私は「護衛」の際にはおそらく役に立たない。なので、ここぞとばかりに動き回った。そして、同時に座長や他の団員さんたちと言葉を交わしていった。


 この先の仕事を円滑に進めていくためにも、まずはしっかりコミュニケーションをとってお互いに話しやすい間柄になっておきたかった。その点、こうした共同作業は都合がいい。荷物や工具の受け渡しから自然と会話が生まれるからだ。



 しかし――、不自然にならないよう気を使いながら主役の兄妹に話しかけてみたが、アクアさんとは一度もお話できなかった。

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