第256話 甘味
「これはこれは――、スガワラさんにラナンキュラス様」
ふたりに気付いたグロイツェルは、彼らに歩み寄って来る。その後ろからアイラも続いていた。
グロイツェルはアイラと出会った経緯を簡単に説明する。同様にスガワラは、グロイツェルを探してここへやって来たのだと伝えた。
「――私はたまたま目的の場所が一緒だったのと、帰りの方向も一緒だったに過ぎません」
「アイラ殿に、ひとり街を歩かせるのは少々心配でしたので……、いや――、これは失敬」
グロイツェルにしては珍しい軽はずみな言葉に、アイラは無言で睨んでいた。そのやりとりを見て、スガワラは彼女と初めて出会った日のことを思い出す。
そして、なにかを言いかけたところで彼もまたアイラに睨まれて黙るのだった。その代わりに心の中でひっそりと呟く。「ひょっとして……、また道に迷っていたのか」と……。
「しかし――、おふたりがここまでいらしたとなると、まさか……」
グロイツェルは察するものあるようで、スガワラを見ると、彼の思った通り、なにやら重そうな荷物を手に持っていた。
「ごめんなさい、グロイツェル様。ボクの手違いでして……、間違ってお荷物を渡してしまったのです」
「なにもわざわざ届けてもらわなくとも……、ランギスか、なんならカレンにでも頼んでくれればよいのです」
グロイツェルの台詞が、シャネイラとほぼ同じで、ラナンキュラスとスガワラは思わず、顔を合わせて笑ってしまう。
しかし、すぐに表情を引き締めてスガワラは彼の前に荷物を差し出した。隣りのアイラを少し気にしながら……。
「ただ、知らぬこととはいえこちらの本来の持ち主には申し訳ないことをした」
「それなら――、責任は私にあります。頭を下げろ、というなら私が伺います」
グロイツェルは自分の持っている荷物を見つめ、状況を察したアイラが話に割り込んできた。逆にグロイツェルとアイラふたりになにがあったか知らないスガワラは、軽く首を傾げる。
「ふむ……、実は訳あって中身を開けてしまったのです」
◇◇◇
時は少し遡り、アイラは「白い粉」を微量、小指で口に運びそれを舐めた。グロイツェルはただただ、静かにその様子を見守っている。
アイラは表情をほとんど変えず、少しの間、自分の掌に載った粉を見つめていた。そして、ぽつりと小さな声を洩らす。
「――これは……、ただの『砂糖』です」
「砂糖……?」
その言葉に場の緊張は一気にほぐれた。中身を隠蔽するような、鉄のインゴットに隠されていた白い粉。その中身がまさかまさかの砂糖だったのだ。
「疑った私が言うのもなんですが――、どうしてこんな隠すような入れ物に砂糖を?」
「ゆえ、私の荷物ではないのだ。おそらく――、知人の酒場で入れ替わってしまったのだろう」
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